【後編】フラーのミッション「ヒトに寄り添うデジタルを、みんなの手元に。」ができるまで
創業10周年を迎えたフラーはこのほど、新たなミッション「ヒトに寄り添うデジタルを、みんなの手元に。」を策定しました。
フラーの新たなミッションは、どのようにして生まれたのでしょうか。また、新たなミッションを土台にフラーはどこに向かうのでしょうか。
創業10周年という節目に生まれたフラーのミッションについて、代表取締役会長の渋谷修太、代表取締役社長の山﨑将司、取締役副社長兼CDOの櫻井裕基が率直な思いを語りました。
後編では、ミッションを土台に描くフラーの未来について迫ります。(全2回、取材・執筆・編集:フラーのデジタルノート編集部・日影耕造、撮影:KENTO Broadcasting inc.)
ミッションがもたらすもの
ーーあらたなミッションは、フラーに何をもたらすのでしょうか?
渋谷:シンプルな変化としては、今度から講演などをする際、冒頭に10周年記念動画)を流して、「ヒトに寄り添うデジタルを、みんなの手元に。フラー」というキャッチフレーズみたいなところから入ることができるから、まあ“エモさ増し増し”みたいな部分はあるよね(笑)。
山﨑:間違いない。
櫻井:うん、間違いない(笑)。
渋谷:それがすごいチェンジじゃないかなと思います(笑)。
あとは、フラーが手掛けていること全てについて胸を張って答えられる、これがミッションがもたらす最大の強みです。
例えば、「長岡花火の開発・運用にあたって、フラーのメンバーはアプリを作るだけではなくて、当日の花火会場のゴミ拾いなどもしています。なぜやってるかというと、ヒトに寄り添うデジタルをみんなの手元に届けるためです」と、ミッションを策定した今、言えるんです。
櫻井:僕は「やらないこと」をきちんと決めている言葉であることがすごく好きですし、大きいと思います。「ヒトに寄り添わないないことは絶対にしない」と社内外に表明することができるわけですから。
山﨑:例えば、これまでもやってないけれども、お金は儲かるけれどもユーザーが幸せにならない案件の相談があった際に、ミッションにそぐわないことを理由にフラーは「やらない、受けない」という選択もできます。
櫻井:高専や大学での授業とか、高専キャラバンといった教育系の取り組みについても、このミッションは当てはまります。
渋谷:そうそう。ヒトに寄り添うデジタルをみんなの手元へ届けるために、高専や大学で授業してるんですよって言えますね。
山﨑:教育はやりたいんですけど、やっぱりお金も時間も手間もかかるし、単に利益を上げるためだけだったら正直難しいんですよ。
渋谷:利益につながるのは超未来だからね。
櫻井:でも、どうしてフラーは教育に取り組んでいるのかと聞かれた時に、ミッションがあれば「人に寄り添うデジタルをみんなの手元に届けるためにやっている」と言えるんです。
フラーは色々なことにトライしてきていますが、一つのことにつながる筋の通った言葉として、今回のミッションが存在するわけです。
渋谷:会社ごととしては短期の目線では利益にならないことで、何となくやっていたけど「どうしてこれをやってたんだっけ?」みたいなものがミッションによって意義がしっかり言語化されたのは大きいです。
単純に稼ぐことがミッションじゃないですから。むしろミッションを実現するために稼いでいるわけですから。
山﨑:間違いないね。自分たちはその未来に投資しているんだ、ヒトに寄り添うデジタルをみんなの手元に届けるためにこういった活動をしていることを理解してもらえるようになるといいなと思います。
渋谷:フラーの授業を受けて「共感できるミッションがあったからフラーに入社した」という学生が生まれたらいいですね。
櫻井:内側の社員に対しても、社会に対してもそうですね。
人に寄り添うデジタルを届けることが世の中のためになる確信へ
渋谷:デジタル化させなきゃいけない、DXしなければいけない、あとは地方創生しなければいけない、そういった時代や組織の要請の中でデジタルのことで悩み苦しんでいる人がたくさん存在すると思うんです。
フラーはこの人たちに寄り添うことがすごく大事だという思いも、このミッションには込められてます。
デジタルにかかわる人たちに寄り添い、デジタルを届けることが世の中のためになるという確信みたいなものが、このミッション策定をきっかけにしっかりと芽生えましたね。
山﨑:ものすごい偶然なのですが、2021年10月に発足したデジタル庁が掲げるビジョンは、「誰一人残さない、人に優しいデジタル化を。」なんです。
フラーもまた、都市であっても地方であっても、人々をデジタルから取り残さない会社でありたいです。
渋谷:AIやブロックチェーンなど、世の中には色々な「最先端」と呼ばれるテクノロジーがあります。でも、フラーはそうじゃないことをずっと大事にしてきました。デジタルから誰も取り残さないために、地方での取り組みを展開してきたわけです。そういった意味では、デジタル庁よりも先行して取り組んでいるんですね(笑)。
ーーまさに「ヒトに寄り添う」ですね。
「やっぱりスマホを頑張った方がいい」
渋谷:バズワードを使いたくないという思いもありました。だって、このミッションは10年使いたいわけですから。
10年後にはDXという概念はあるでしょうか?デジタルはさすがにあるかな…。SDGsや地方創生はどうでしょうか?10年間も地方創生を叫び続けていたら、きっと逆に地方の未来が見えないでしょうしね。「みんなの」というバズワードにとらわれない言葉を入れたのにはそんな理由もあります。
山﨑:フラーはバズワードの流行が終わっても、フラーが大切だと思ったことはやり続けていると思います。それが会社のいいところでもあるのです。
櫻井:フラーって意外とバズワードを使わない癖があって…。
渋谷:流行に踊らされないよね(笑)。フラーを10年やって正しかったなと思ったことは、10年経っても全世界がスマホを使っていることです。スマホ一筋でなかったら、フラーは全然違う領域に行っていてもおかしくなかったなと思います。
先端のIT企業の人たちの中には、「まだスマホやってるの?」みたいな感覚の人って多分いるんじゃないかと思います。世の中もブロックチェーンだとかAIだとか言うけれど、地方に来てみたら全然スマホに注力した方がいいなと実感しました。
山﨑:うん、間違いない。
渋谷:やっぱり、最新のテクノロジーと世の中って、すごくギャップがあるんです。
櫻井:みんなデジタル化ができているとニュースでは言うけれど、日本を見渡してみると実際はそんなにできてないのが実情だと思います。
実際、App Apeのデータなどを見ているとまだまだスマホ市場は伸びしろが非常に大きいですし、スマホに注力するというのは全然ありだと思っています。
渋谷:人に寄り添うデジタルは、「デジタルの民主化」ということだと思うんです。みんな取り残されないほうが大事じゃないかなと。その意味でも、今回のミッションは本当にフラーらしいワードになったよね。
山﨑:うん、そう思う。どこにでもありそうな言葉だけど、この言葉はどの会社も言えない気がするんですよ。フラーしか言えないワードなんじゃないかなと思います。
ヒトに寄り添ったこのミッションが「世界一、ヒトを惹きつける会社を創る。」というフラーの「ユメ」に綺麗につながるのがすごくいいなとも思っています。
「フラーがあったから」を増やしたい
ーーミッションを土台に、フラーはこれからどんな世界を見据えているのでしょうか?少しだけ未来のお話を聞かせてください。
山﨑:フラーに携わると幸せになる、そんな人をどんどん増やしていきたいです。渋谷が10周年で寄せた言葉の中にある「フラーがあったから」を増やしたいと思っています。
渋谷:フラーが地域に根付くことで、フラーがあるからUターンや移住をしたい人が増えていく、そんな役割を担う世界があるんじゃないかなと思います。
地方でデジタルパートナーを必要とする企業のためにフラーの拠点があって、フラーが事業をやってるから働ける地域の若い人がいて、働ける人がいるから、将来働く人のための教育支援ができるという循環を生み出す世界です。
新潟で新潟の子たちにデジタルについて教えて、その子たちが育つからまた地域や会社がデジタル化していくーー。そうやって全部循環しているんだろうなと。
地域に根付いて企業のデジタル化を支援しながら地域に雇用を生み出し、将来のデジタル人材を教育の現場から育てる支援が、フラーはすでにできています。
渋谷:地方からのデジタル化を実現できているこの「新潟モデル」は本当にすごいことだと思っています。
これからはお客さんの数を増やしたり、「新潟モデル」をもとに地方に拠点を増やしたりしていくことで、もっと多くの人の手元にデジタルをとどけるということが重要だと思います。
そういう意味で、「フラーは何で規模を拡大するんだっけ?」という問いへの答えもこのミッションの中に入ってる気がします。
山﨑:より多くの人の手元にデジタルを届けるために、フラーは規模を拡大していく、ということです。
自分が社長を引き受けるときに、経営者とは何なのだろうなって考えたんです。いろいろ自分なりに調べたんですけど、すごく印象に残ったのがクレイトン・クリステンセンさんの著書「イノベーション・オブ・ライフ」にあった「経営者は、世の中の職業の中で最も多くの人を幸せにできる職業だ」という言葉です。これは最高の職業だな、こんな良いことはないなと思い、社長を、経営者をやってみたいなって思ったんですね。
だから、僕は人を幸せにすることにすごく価値を感じています。フラーが規模を拡大することは、幸せな人を増やせる可能性が高まることだと思っています。人を幸せにすることは自分のユメでもあります。今回策定したミッションと自分のユメに紐付けて進めたいなと思ってます。
渋谷:DXと地方創生は、現在、そしてこれからの日本にとって一番重要な課題になってくると僕は見ています。
そのような課題に対し、今現在、解決も含めて自然にやっていることがフラーの強みです。
自然に取り組んでいるけれど、別に“地方創生カンパニー”とも言わないし、“DXカンパニー”とも言わないということがすごく大事だと思っています。ここから15年、20年と年月を重ねるごとにもっと世の中にとっての新たな重要課題はまだまだ出てくる可能性があるからです。
そんな次の課題に対しても、フラーは自然に対応している会社になっていると思います。
山﨑:わあああ〜〜フラーだったらやってる気がする(笑)。自分たちは課題が先に見えてるし、課題について世の中で叫ばれ始めたときにはもう既に取り組んでいる状態でありたいですね。
渋谷:そうそう。10年もあったら世の中は相当変わります。実際、10年前はスマホは世の中に普及してなかったわけですから。
世の中に課題として認識されたときには、フラーは「もうやってました」みたいな感じでした。本当に理想の形だなと思います。
ーー結果的に”先見の明“になるのはどうしてなんでしょうか?
山﨑:答えは明確です。渋谷も桜井も自分も、「ヒト」を最も重要視してるからです。だから、課題に敏感なんだと思います。
例えば、フラーは2016年に新潟拠点を開設した当初から拠点間のリモートワークを開始していました。だから、フラーは新型コロナウイルスの影響で外出自粛が続く中でもすごくスムーズに対応できています。
この新潟拠点の開設は「新潟に帰りたいけど地元に帰ると仕事がない」という一人の社員の課題から始まりました。
渋谷:根底にそもそも「人が困っているのを助けたい」という思いがあって、「何とかしてあげたい」と思うのです。
たった1人の課題の後ろには、その瞬間に1000人の困っている人がいるといいますし、困っている人は基本的に増えていくものです。
先にたった1人の困りごとをフラーとして解決していることが、結果として先見の明につながるし、その結果を振り返る形でミッションがワーディングされていくのだと思います。
山﨑:沖縄サテライトオフィスは、フラーが全然知名度がない時からフラーに対してあたたかく接してくれたのが沖縄高専だったことが、沖縄に拠点を作ろうと決断した大きなきっかけになったんです。お世話になった人に恩返しをする、そういう思いが強い会社がフラーなのだと思います。
今後フラーが目指すものとは
ーービジョンを踏まえて、今後、具体的にやりたいことは何ですか?
山﨑:今の事業を拡大させることです。
僕たちは株式上場を目指しています。そのためにはきちんと予算を立てて、その予算に見合う売り上げを達成することが一番必要です。
デジタルパートナー事業の成功事例を他の企業や地方に横展開し、安定して拡大させていく連続的な成長が大事だと思います。
創業から10年が経過したフラーは社員数も増え、社会的な責任もすごく大きくなっています。それだけに、安定した成長はとても重要です。
もちろん、フラーらしさを取り入れながら成長したいと思っています。成長とフラーらしさのいい塩梅を見つけたいなと思います。
せっかく自分たちは「明日は行きたくなるような会社」を全力で作ってるのに、その価値が周りで認められないなんて悲しいなって思ったんですよ。それをもっといろんな人に広く知らしめたい気持ちはあります。
こんなに優しい、こんなに素敵な会社はなかなかないんじゃないかなって思っているので。
櫻井:ミッションに掲げる「ヒトに寄り添うデジタル」をより多くのヒトの手元に届けるには、やっぱりそれなりに大きくなっていかなければいけないなと思います。一緒に作れる仲間を増やして行きたいですし、作れるものの幅を広くしていかなきゃいけないです。
上場することで財政基盤の強化もそうですし、信頼ある企業だからこそいろいろな取り組みを展開できることもできるでしょう。そういった意味で一つの重要なステップだ思っています。上場は手段であってゴールじゃないんです。
働き方や、フラーがいいデジタルを作っていくための土台も強くできる投資も、少なからずミッションに向かう近道としての手段ではあるなと確実に思っています。
今回ミッションを作って、これからどんどん発信をしていって、僕たち自身も立ち戻る原点として、そのミッションを常に念頭に置きながらこれからフラーの一員として取り組んでいきたいです。
なぜミッションは必要なのか
ーーそもそもミッションってどうして大事なのでしょうか?
山﨑:規模を拡大していく中では、みんなが同じ方向を向くことが大事だからです。
特にフラーみたいに地方に拠点を作っていく中、どの土地に行っても同じ気持ちで仕事をするためには、同じ方向を向くための共通の言葉であるミッションが大事です。
わかりやすい共通の言語を作ること、できるだけ短い言葉で、みんながわかりやすい言葉で用意することが大事だと思います。
渋谷:そうそう、ミッションがあれば、フラーがどうして存在しているのか、外から見たときにもすごくシンプルに分かるものね。
ーー櫻井さんはいかがですか?
櫻井:「ユメ」はなりたい姿ですが、「ミッション」は社会の中でありたい姿です。社会の中でフラーは何がやりたいの?と問いかけられた時はっきりと言える言葉がミッションだと思います。迷ったときとか、立ち戻るときに、やっぱりここにミッションという言葉があることは重要でです。
これからフラーが大きくなっていくためにも、自分たちの中に何となくあった感覚を言語化して、自分たちも腑に落ちて、大事にしていくっていうことだけでも大きいと思います。
北極星じゃないけどちゃんと向かうべき針路を示すピースがある安心感があるから、ミッションは大事なんじゃないかと思います。
櫻井:これからすごく人数が増えていって、フラーとしてあるべき姿や意識を含めて忘れがちになる場面ってきっとあると思うんです。長いから見て、ミッションのように言葉を見た瞬間にメンバー含め全員が理解できることで、組織の形骸化を防ぎ、いい方向に向かうことができると思います。
そのためにも、この言葉がまさに今、このタイミングで必要だったのだと思います。
渋谷:うん、今じゃなきゃ出せなかったんじゃないかと僕も思いますね。
5年前に10周年記念動画のように“デジタルをみんなの手元に“とは多分言えなかったじゃないですか?
でも、今ならおかしくないなと。
これまで実績や幸せにしてきたものが10年分あるからこそではないかと思います。
10年間、スマホ一筋でやっていないと言えないことだと思います。
櫻井:この10年は間違ってなかったんだってことに気づけたんですね。ミッションはそれをちゃんと言語化した言葉でもあると思ってます。
渋谷:それを自分たちのタイミングで発信できたことはすごくいいと思います。
100年後のフラーも考えた
櫻井:そうそう、実は、「フラーの100年後」みたいなパーパスを含めて当初は全部決めようとしていたんだよね。
渋谷:パーパスは100年後も変わらないものという概念で、ミッションは3年から10年の中長期的な視点です。
100年後のフラーについても、いろいろなキーワードが出たのですが、「それは20周年でいいんじゃない?」みたいな結論に至りました(笑)。もちろん、このミッションのデジタルやヒトという部分の価値は少なくとも今後10年は持続すると思っています。
ただ、結果として、今回言葉として自信を持って出せるのはミッションだったと言う形です。
山﨑:これは結果オーライだったのですが、新しく決めるのをミッションのみの一つに絞ってよかったなって思いました。ポイントを絞って一つのことを伝えた方が、多くの人に伝わりやすいからです。
渋谷:5年後、10年後にもっと何か違う未来があると思ったら、その時に考えればいいかなと思います。
山﨑:最後に個人的な話にはなるのですが、去年開いた10周年記念式典でミッションを含む会社紹介のプレゼンテーションをしたのですが、実は全く緊張しなかったんです。
山﨑:特にこのミッションについては、本当に自信を持って伝えることができました。新潟の名だたる企業のトップを目の前にしてお話するのはすごく緊張するのではと思っていましたが、本当に全く緊張しませんでした。
短くても自信がある言葉を自分たちで作り出したからだと思います。自信がある言葉って大事なんだなと強く思いました。このミッションはそういう意味でもフラーらしさが存分に詰まった言葉だと思っています。