“ワンチーム”でものをつくるということ comottoウォレット開発秘話
株式会社NTTドコモが手がける、親子ではじめるお金教育アプリ「comotto(コモット)ウォレット」。フラーはアプリのビジョン・ミッションの策定の段階からUI/UXデザインまで伴走支援しています。
アプリづくりの裏側で、ドコモとフラーの担当者はそれぞれどのような思いで取り組んでいるのでしょうか。comottoウォレットを手がけるキーパーソンに、これまでとこれからについて伺いました。
“ワンチーム”を組み上げてものを作る
ーーそれぞれのご担当について教えてください。
伊美:ドコモでcomottoウォレットの全体統括を担当しています。フラーさんにデザインに寄った部分を重点的に見ていただきながら、開発も含めたプロジェクト全体を見てリードするいわゆるプロジェクトマネージャーやディレクターと言われる役割を担っています。
元々ドコモでは子ども向けの知育アプリ「dキッズ」を担当しており、フラーさんとはこのdキッズのデザインリニューアル時からご一緒させていただいています。キッズ領域にずっと取り組んできた中での新たな挑戦として、今回のcomottoウォレットを手がけました。
子ども向けのプロダクトは子どもがユーザーですが、その傍には保護者もいます。保護者と子どもの関係性と、そこに対するアプリの関係性をどう作るか、フラーさんと一緒に考えてdキッズをブラッシュアップしていきました。
そんな経験があったので、comottoウォレットのプロジェクトが立ち上がったとき、ゼロベースで企画から作るならぜひフラーさんにお願いしようとお声がけしました。
木村:comottoウォレットの運用面の整備やプロモーション、カスタマーサポートといったお客様に近いビジネスサイドを主に担当しています。
これまで営業職やスポーツ分野・インバウンド・訪日外国人向けといったさまざまな新規事業やサービスの立ち上げを担当してきました。
ドコモからは私たち2人の他に、多い時で5人ほどのメンバーがプロジェクトに参加しています。開発ベンダーさんも入れると、総勢15人ほどでしょうか。
南:フラー側のプロジェクト推進責任者を務めています。責任者と言ってもすべてを担当しているわけではなく、現場は他のディレクターの力を借りています。特に初期の企画やコンセプトづくりの際にご一緒させていただきました。
永光:プロジェクト立ち上げ時のリードデザイナーとして、主にコンセプト周りのデザインを担当しました。アプリ内に登場するハムスターのキャラクターのデザインや、デザイナー全体の取りまとめ役も務めました。フラーはセールスのメンバーも合わせると10人近くになります。
伊美:各社合わせて30人近い規模ということもあり、チームの立ち上げ段階は本当に大変でしたね。
南:おっしゃる通りです。大型開発ならではの産みの苦しみですね。今回のプロジェクトはどこを目指すのかを決める初期段階でも、また具体的にどんな機能が必要かを検討する各論でも、メンバーそれぞれが色々な思いを持っており、集約・調整が大変でした。
「この機能は欲しいしやった方がいい、あった方がいい」となる一方で、「この機能を入れると軸がブレる」といった感じで行ったり来たりしました。アプリのターゲット検討や親子の課題の抽出といった初期の企画フェーズで、議論が行ったり来たりしながらの中、膝を突き合わせながら取り組んだのが印象に残っています。
伊美:特に今回のプロジェクトはドコモ社内だけでもステークホルダーがとても多く、さらに部署も会社も違うメンバーが一つのものづくりをするわけです。それぞれの組織としてのミッションもあったりするわけで、その中で組織を横断した“ワンチーム”を組み上げてものを作るという大きなプロジェクトです。
教育であり、コミュニケーションであり、ワクワクするものであること
ーーcomottoウォレットはどのような経緯で生まれたのですか?
伊美:comottoウォレットの前に、母体であるブランドのcomottoの話をさせていただければと思います。
comottoは2023年3月に「子どもの未来を、もっと。」をコンセプトにドコモが取り組み始めたブランドです。
ドコモはいろいろな部署で多様なコンテンツをお子さま方に向けてご提供していたのですが、あらためて一致団結してよりわかりやすく、よりお子さまの未来につながるものをお出ししようとの思いで全社的に始めたのが、このcomottoになります。
重視していたのが、未来につながる教育で、具体的に色々な分野を検討した中で注目したのが「お金」です。生活や体験に密着する形で「お金についての教育」ができないか、と。
そんな親子で始めるお金の教育であり、生活の中でお金について体験し学ぶことができるプロダクト、これがcomottoウォレットです。
保護者にとって、お金についての教育をちゃんとしたいけれど何をやったらいいかわからないもどかしさは大きな課題です。昨今は学校でも金融教育という言葉が出始めるようにはなりましたが、まだまだ難しいところもあります。
そこで、 日常生活の中で体験的にお金について学べるものを作ろうとcomottoウォレットの開発にいたりました。
木村:今回のプロダクトは「親子」で学べるというのがキーポイントになります。ですので、親子で「やったよ」などと確認し合う仕組みをどう作ったらいいのかといった親子のコミュニケーションが生まれる仕掛け作りに苦労しました。重要だけど大変なところで、ここは特にフラーさんを頼らせていただいた部分ですね。
伊美:今回のターゲットである小学校低学年中学年ぐらいのお子さまのいらっしゃるご家族にインタビューをしてみると、お金について学ぶということについて、各ご家庭で実にいろいろな工夫をされている様子が分かりました。
ホワイトボードに「お小遣いはこういう風にあげてみよう」みたいなことを書いてお子さまと話し合っていらっしゃるケースもありましたし、本当にみなさん試行錯誤されていました。
ただ、どんなやり方が正解なのか、まだ世の中的にノウハウも少ないところですし、やはり各家庭でそれをやるというのは大変で難しいことも痛感しました。小学校低学年くらいだと楽しくできることも重要だというのも見えてきました。
誰でもできて楽しめるような形にしたい、そんな思いをぜひ形にしたいなと思い、comottoウォレットの企画にフラーさんと取り組みました。
南:そういった思いを受けて、最初のコンセプト作りのところは特に重視して取り組みましたね。
伊美:はい、週2回くらいの頻度のミーティングを2カ月ほど重ねました。しっかり時間をかけましたね。
ーー具体的にどんなことに取り組んだのですか?
南:特にユーザーインタビューを一緒に大事に取り組みました。
プロジェクトを始めるにあたって、私たちはまず、できる限りそのプロジェクトに関係するユーザー体験をするのですが、今回のプロダクトはやっぱりユーザーが小さなお子さまなので、私たちがその気持ちになりきるのは難しいところがあります。保護者側の気持ちがわかったとしても子ども側の気持ちはなかなか……。
そこで、私たちが想定するような使い方を果たして子どもがしてくれるかというところを、ユーザーインタビューを通じて考えました。
伊美:ユーザーインタビューにおいては、フラーさんをとても頼りにさせていただきました。
私たちはユーザーさんの声を聞いたり、社内で協力してもらったりすることはできます。ただ、適切にユーザーの声を聞くためには、いいかどうか判断してもらえるだけのものを実際に作ってお示しする必要があります。
そこで、フラーさんにすごいスピード感でユーザーインタビュー時のプロトタイプなどのデザイン物を作っていただきました。それを実際にユーザーさんが見て触ってフィードバックをした知見をもとに設計を進められたことは、特に子ども向けプロダクトにおいてはとても重要だったなと思います。
南:おっしゃる通りで、アイコン一つとってみても、本当に子どもが見てわかるものになっているかどうか確かめる必要があります。とにかく調査の時はまずものがないとユーザーさんもいいかどうかわからないので、デザインのプロトタイプを必ず作っていって、いただいた意見を受けて改善して、改善したものをまた持っていって……。
伊美:いやー、やりましたね。社内でまず見てもらって、そこからユーザーさんに見てもらって……というサイクルを繰り返しました。
南:当時は大変でしたが、この時点でしっかりユーザーインタビューを軸にコンセプト作りに取り組めてよかったなと思います。
伊美:こういったことをスピード感持ってできたのはフラーさんと取り組んだからこそです。フラーさんが示すデザインは、フラーさんとしてはまだラフの段階だとおっしゃられるのだけど、私たちから見るとその時点ですでにかなり品質が高いというか、作り込まれているというか。
フラーさんは、ユーザーさんへのインタビューを含めた色々なものをしっかり取り込んだデザインを、すごい速さで出してきます。デザインに昇華するというスピードがとても速いので、結果的に作っているものの解像度が上がっていくスピードも速いんです。
しかもその中でみんなの共通認識を作る精度も高いので、とてもプロジェクトが進みやすい。こういったところが、フラーさんとお仕事をする一番のメリットだなと感じています。
木村:フラーさんは、こちらが依頼したことについてただ作業をするのではなく、その背景にどういう課題があるのかを考え抜き、時に私たちが見えていなかったことまで気づいた上で、しっかり良し悪しの判断がしやすいような形で具現化された提案を示してくれます。
それぞれの案についてただ作るのではなくて、各々のメリットはこうです、デメリットはこうですと説明があるんですね。デザインのプロではない自分でも「なるほど、こっちにはこういうメリットがあるんだな」とすぐに理解でき、とてもありがたいなといつも思います。
ユーザーを一番に考えた取捨選択
ーーアプリの開発を進める中で特に大変だったことは何ですか?
木村:ローンチに向けては、設計段階でプロダクトの機能を最小限まで削ぎ落としてシンプルなものとし、そこから徐々に改善を重ねていく形を取りました。この機能は本当に必要かという議論をしていったのですが、これが難しかったです。「あるに越したことないけれど……」というものを思い切って削るのは、なかなかハードでした。
対して現在は改善のフェーズで、スモールステップで機能を追加したりという段階です。今思うと、最初にああやって削っていったのは正解だったなと思うのですが、当時はやっぱり難しさを感じる作業でしたね。
伊美:現実的なリソースや期日を考えながら、これらのことを社内のさまざまなステークホルダーが集まったチームで温度感をお互いに擦り合わせながら作り上げていくのは、やりがいがある一方で本当に大変でしたね。
南:この機能は欲しいけど開発工数を考えると今回は……、ということもありました。今でもありますし、本当に難しいところですよね。
伊美:そのあたりもフラーさんの頼りになるところで、フラーさんはデザインを大事にされている会社さんでもあるんですが、プロダクトを開発している会社でもあるので、開発のことについても理解がすごく深いんです。そういう観点を持ちながらより良い体験のためのデザインをフラーさんが作ったからこそ、課題を解決していけたんだと思います。
デザインを真ん中に置き「結局ユーザーに何が届くのか」を一番に確認しながら取捨選択して行けたので、みんなで同じものを思い描きながら作っていけました。
ーーいいアプリになりそうな手応えを感じたのはどんな時でしたか?
伊美:成功への手応えを感じられたのは、開発途中で実際にお子さまを含めたユーザーさんに触ってもらって、ワクワクしている様子を見たときですね。
こまめに成果物を出して動きを都度確認するアジャイル型で進めていったので、開発チームとしては「もうこんなに動くじゃん」とアプリが出来上がっていくことを喜んでいました。
プロダクト内のハムスターのキャラクターを「ハム」と呼んでいるんですが、「ハムもうこんなに動いてるじゃん!」とか(笑)
それをお子さまに見ていただいて、良い反応を得られた時により一層の手応えを得ていましたね。
永光:私も同じく、手応えを感じたのは実機で動く様子が確認できたときですね。
デザインだけを自分のPCで見ていると、動きのない紙芝居のようなプロトタイプなので、それが実際に動いている様子を見ると「動線がつながった!」みたいな。
伊美:さらに完成への手応えを感じたのは、開発チームの目線で言うと、デザインがある程度固まってきたあたりです。開発チームと他のそれぞれのチームが一回意見を交わした上で、皆が納得したスコープが決まってきたので、これは作り切れるだろうなと思いました。
木村:ちょっと遅いタイミングにはなってしまうのですが、私はユーザーさんからストアレビューをいただいた時ですね。
自分たちで作ってきたアプリはやはり可愛いので、他の方々から見てもよく思っていただけているんだなと感じる瞬間はやはり嬉しいですね。
また、お問い合せなどをいただく中でさまざまなご意見・ご要望を頂戴した時も手応えに近いものを感じます。ちゃんと使っていただけたからこそ、お客様の生の声があると思うからです。
伊美:たしかに、「こんなアプリが欲しかった。でもここを直して欲しい」といったご意見は本当に嬉しいですね。本当によく使っていただけているのだなという思いになります。
南:もっと使いたいという気持ちがありがたいですね。
アプリでリアルの体験を作り出す
ーーアプリ作りで大切なことは何ですか?
南:プロジェクトを始める際、アプリだけで完結する役割を求めているのか、それともリアルを支えるものとしての役割をアプリに求めているのかは、どんなアプリを作る際でも質問させていただいています。
今回の場合は、デジタルで完結するのではなく、現実の親子のコミュニケーションをアプリが支えるという共通認識を持った上で取り組みました。ここの共通認識を持っていないと、どうしても議論がバラバラになってしまうからです。
永光:comottoウォレットを作る際には、「ここ別に、アプリ上で表現する必要ないよね?」と気づいて削った機能があります。リアルでの体験が常にあるのに、アプリだけで全てをしてもらおうとする必要なんてないなと。
こういう決断が皆納得してできたのは、さっき南さんが言った共通認識があるからだと思います。
また、チームそれぞれがお互いにリスペクトの気持ちを持っているというのがとてもプラスに働いていたと感じます。アプリ作りに限らず、仕事のしやすさはとても大切です。
南:そのあたりは、やっぱり伊美さん・木村さんのお二人がチーム作り・雰囲気作りをやってくださっているからこそです。チーム皆が一緒の方向を向いて走っていくことができました。
ーー木村さんと伊美さんはいかがでしょうか?
木村:細かい説明がなくてもわかるかどうかは、アプリ作りにおいてとても大切だと思っています。
私自身、過去にはドコモショップに来たお客様と直接接する機会がある業務を担当していたことがあるのですが、やはりユーザーの皆様はアプリの操作に特別詳しいわけではありません。
そんな中にあって、「多機能だけど、説明を見ないとわからない」というアプリは、やはりなかなか使いづらいものです。
操作のシンプルさだけでなく、出てくる文言の一貫性なども影響が大きい要素です。その点フラーさんはテキストをいつもきちんと丁寧に揃えてくださいますし、ボタンなどについてもわかりやすく統一感のあるものに仕上げてくださっています。こういった配慮が大切なんだなと感じます。
伊美:今回のアプリは「きっかけ作り」のような部分が大きく、アプリ内の体験だけでなくその周りにあるリアルの体験を支えることが大切です。
特に親子にまつわるものを作る際には、子どもがそのプロダクトで何かをやり、保護者がそれを見て子どもに声をかけ、また子どもがリアクションを保護者に返すといった、アプリの周りにあるリアルの体験まで作り出すことがとても大事だなと思います。
今はもう子どもたちは早くからインターネットに触れていますし、それこそスマホを持つのもどんどん早くなっています。
まだ自分で持っていないうちでも周りの大人が使っているので、本当に身近な道具です。だからこそ、スマホの中だけに閉じず、それがきっかけになっていろんな体験ができるアプリこそが、やはり子どもに向けたものとしては必要になるのかなと。
まさにその部分を、フラーさんは一緒に大事にしてくださったなと思います。
comottoウォレットの見据える未来
ーーcomottoウォレットの今後の展望について教えてください。
伊美:おかげさまでcomottoウォレットは想定通り、元々ターゲットとしていた小学校低学年中学年ぐらいの方たちを中心に使っていただいています。現在はユーザー数をメディアなども使いながらどんどん広げているフェーズです。
連携の取り組みをさせていただいている野村ホールディングスさんがお金にまつわるお子さまへの教育ノウハウをお持ちなので、そういった関係を活かして一緒にイベントなども行っています。
また、私たちドコモには全国に支社支店があるので、そういった場所でもcomottoウォレットを絡めたお金の知識にまつわるイベントを開いています。こういったイベントは、実は結構人気があるんです。全社的な取り組みとして、こちらも広げている最中です。
子どもがスマホに触れるのが早くなっていく中で、お金を通じて社会の中でできることを増やしてもらいたい、子ども自身が見る世界を広げて欲しいという想いがcomottoウォレットには込められています。現在はまだできていないのですが、今後は実世界で使える決済方法やポイントにまで繋げていけたらなと考えています。
学校教育への現場に対しても、金融教育という観点で貢献できればと考えています。義務化したとはいえやはり学校教育の現場で金融教育を行うのは難しい部分もありますし、学校でできたとしてもそこから各ご家庭の取り組みは繋げられるかというとそれも難しいのが現状です。
そこで、学校でも取り扱いやすく学んでご家庭でも続けられる体験としてcomottoウォレットを提供できればと考えています。実際に野村證券さんは小中学校に金融教育の授業をされている野村證券さんとも、授業の中でご活用いただけないか相談している最中です。
金融教育というのは、動画などの見るコンテンツは色々あるのですが、生活の中で実際に体験できるものはなかなかありません。comottoウォレットはそれができるプロダクトなので、comottoウォレットでの体験と絡めることで、お金に対する学びがより取り組みやすいものになればと願っています。
木村:そんな中でフラーさんには本当に戦略の部分から入っていただいているというか、ただ納品物をいただいている関係ではない、チームとしての関係が生まれているなと思います。ここからさらにワンチームで取り組めたら嬉しいです。
「comotto(コモット)ウォレット」公式ウェブサイト: