ヒトに寄り添うデジタルであるために 長岡花火公式アプリ7年目の景色(後編)
フラーと長岡花火財団が運営を手がける「長岡花火公式アプリ」が7年目を迎えました。
長岡花火公式アプリは、フラーのデジタルパートナー事業の原点であり、一連のアプリの開発や運営を通じて、その後のフラーのものづくりの形を決定づけるきっかけを数多く生み出しました。
実際にアプリを手がけてきたフラーの作り手は、当事者としてどのような思いでアプリに向き合い、7年に迫る長期運営をしているのでしょうか。
冬の長岡にフラーのアプリ運営メンバーらが集まり、語り合いました。(後編、2023年11月取材、文と写真:日影耕造)
前編はこちら↓
200箇所の現地確認で精度を高めるマップ機能
櫻井:マップ機能も長岡花火公式アプリの大きな魅力ですよね。デジタルの地図を手元で扱えるというのは、アプリならではだと思います。
伊津:はい、スマホアプリの魅力が一番出ていますね。
櫻井:実際にどんな風にあのマップを作り上げるのですか?
宮﨑:まずは、花火大会開催1ヶ月半くらい前に、長岡花火財団から紙の地図で「今年はここにトイレを設置予定です」といった会場設備についての情報をご提供いただきます。
毎年劇的に変わるものではないのですが、それでも位置や設置数などのアップデートが確実にあります。
その情報をアプリの地図に落とし込むにあたって、紙でいただいたデータをそのままデータ化して、それで終わりにするという考え方もあるとは思います。
しかし、現場では、微妙に位置を変えたりいろいろなことをしていることがあるんですね。イベントっていうのは現場に行ってみないとわかりませんし、状況に応じてその場での細かな変更があるという、そういうものだと思うんです。
ですので、なるべくいただいたデータそのものではなくて、現場の生の状況を正しく反映できるよう現地に行っています。
位置情報や設備の設置数に変更がないか確認して、必要に応じて設備の座標位置データをその場で取り直したり、写真が古ければ撮影し直したりしています。
そういった一連の確認を毎年やることで、データをできるだけ正しいものにしています。
長岡花火公式アプリのマップ機能は本当にメインの大きな機能になっています。それだけに、この情報がどこか間違ってたら、かなりがっかりしたマイナスのユーザー体験になってしまうと思うんです。
だからこそ、可能な限り現地に行って、しかもなるべく本番に近い状況となっている花火大会の開催直前に行って、データの正確性を高めることを毎年しています。
櫻井:確認する箇所は毎年何ヶ所くらいあるのですか?
宮﨑:大体200ヶ所、回れるとこは全部回って確認しています。
山﨑:すごい!
宮﨑:大会直前は真夏なので、毎年めちゃくちゃ暑いです(笑)。
櫻井:やばいっすね…。どれぐらいの時間で回るのですか?
宮﨑:一番最初にこれまで紙だった地図をデジタルにしてアプリ内マップを作った2019年は、丸2日間かけて行いました。位置や数の確認とともに施設などの写真を全部撮影して回ったんです。最初作ったときが一番大変でしたね。なんといってもゼロからイチを生み出すわけですから。
伊津:そう、あのときは一番大変でしたね。当時は写真を撮ってアップロードする作業も現在のように最適化されてなかったので、気合で取り組んだ感があります(笑)。去年はコンテンツの管理・更新でツールを導入してかなり扱いやすくなりましたが。
櫻井:200ヶ所の現地確認はフラーから自発的に行ったのですか?
宮﨑:はい、そうです。
櫻井:そんな苦労があったとは…。
宮﨑:長岡出身の担当エンジニアに「この写真はもう古い。撮りに行かないんですか?」と言われるんです(笑)。
櫻井:それは大変ですね(笑)。
宮﨑:さらに、これまでフラーの開発スタッフが手動で行っていた駐車場の混み具合のリアルタイム表示を財団の職員さんが手がけられるよう管理画面を作るなど、アプリにとどまらないさまざまな支援をしています。
コロナ禍のアプリ運営で大切にしていたこと
櫻井:長岡花火も新型コロナウイルスの影響を大きく受けました。コロナ禍における長岡花火のアプリの開発・運営では、どんなことを大切にしていたのですか?
宮﨑:2020年と2021年は大会自体が中止となったので、大会に向けたアプリのアップデートは本当にやりようがない状態でした。
花火大会がないので何もやらない、というのも一つの選択肢ではありました。でも、長岡花火を楽しみにしているユーザーがすごくたくさんいることをフラーも財団もアプリ運営を通じてすでに分かっていました。
そして、もう若干みんな忘れかけてるかもしれませんが、2020年というのは世の中的にものすごく暗くて、外に出る楽しみがない、けっこう鬱屈したような状態だったと思います。
そんな厳しい状況の中、花火を楽しみにしてたユーザーのみなさんに花火への思いを届けるとともに、家でも楽しんでもらおうというコンセプトで、先ほど紹介した長岡花火の公式PR動画に直接つながるボタンを急きょアプリ内に設置しました。
コロナ禍が続いて花火大会が再び中止となった2021年には、長岡花火の写真をまとめた「フォトギャラリー」のアップデートもしました。
さらにもうひとつ手を入れたのが「カウントダウン」です。
毎年、8月3日の花火が終わると、来年の花火大会に向けてアプリのトップ画面でカウントダウンの表示を開始するのですが、2020年は中止が決まったそのタイミングで2021年の花火大会に向けたカウントダウン表示を開始しました。
これは「来年は絶対上げるぞ」っていう意志を強く打ち出したものでした。
ユーザーの方の中にもその思いを感じてくださってわかってくださった方がいて「来年はやろうとしている意志をすごく感じた」といったコメントをSNSで見てうれしく思いました。
櫻井:厳しい中でも花火への思いを前向きに発信することを大切にしていたのですね。カウントダウンの表示などは財団と一緒に話しながら決めたのですか?
宮﨑:はい、その通りです。大きな開発はできないけれど、「何かやりましょう」とお話を持ちかけて議論した結果ですね。
櫻井:長岡花火公式アプリは、これまでずっとアップデートし続けていく中でコアなファンが集まってくださっています。そんなアプリならではの取り組みでしたね。
宮﨑:長期間アップデートされないアプリからはユーザーが離れていくものです。そういったアプリ運営やアプリの成長を継続的に担保するという観点でも、せっかくこれまで順調に成長してきた長岡花火公式アプリの成長をコロナのせいで止めたくないという思いがありました。
櫻井:フラーにも高い熱量があったわけですね。その熱量を相手も多分受け取ってるから信頼をしてもらえている部分があるのかもしれませんね。
アプリ運営におけるクライアントとの関係性
櫻井:クライアントである長岡花火財団とのやりとりや関係性の中で印象的に残ったエピソードはありますか?
山﨑:僕が今一番印象に残ってるのは、コロナによる中止を経て初めての開催となった長岡花火(2022年)のときに、財団の初代から3代目の長岡花火担当が全員集合したのが、自分的には一番印象深い場面でした。
一番最初にフラーにアプリを発注してくださった人と、その次に引き継いだ人と、今現役でアプリを担当している人の3人が並んで、一緒に会うことができたんです。
その瞬間に立ち会った時、アプリを長く続けていたんだなということをあらためて感じて、すごく印象に残りましたね。
櫻井:すごいね。確かにずっと作り続けて担当の方が変わっていっても、アプリはずっと続いているというか。
伊津:アプリ初年度は長岡花火財団が発足した年だっただけに、アプリを推進する財団の担当者の方のモチベーションが非常に高くて。それだけ強い気持ちでやっているのだということを初年度に感じることができたのはすごく良かったですね。
そして、その担当の方がフラーをよく信頼してくれたのはすごくありがたいことでした。当たり前なのですが、初年度はそんなにアプリのユーザーも多くなくて、数字だけ見たら「来年はアプリをやめる」と言われてもおかしくない状況でしたが、翌年以降も継続してお願いがきたことはすごく大きいですね。
山﨑:フラーがクライアントとの関係性を大切にするという観点で毎年やっていたことは、「報告会」です。これを毎年ちゃんと行っています。アプリを作って終わりではなくて、どんなふうに使われたかを丁寧に説明しています。これはもしかしたら今のフラー全体のプロジェクトで行われている報告会の礎にもなっているかもしれませんね。
櫻井:あの報告会の文化も別にクライアントから言われたからやるってわけじゃなくて、フラーからアプリのデータからわかることもあるからっていう目線で初年度からやっていますよね。
山﨑:振り返りに加えて、フラーは3年計画も示しています。わたしたちはそれぐらい長続きするものを一緒に作りたいという姿勢を示すきっかけになっています。
アプリからの新たな広がり
山﨑:アプリが長岡花火の冬バージョンであるウィンターファンタジーを知ってもらうきっかけにもなっていることが嬉しいなと思います。
ウィンターファンタジーは2017年に新しく始まったのですが、アプリを通じて花火ファンに長岡花火財団の新しい取り組みを伝えられたのは広がりを感じる大きな価値だなと思います。
また、フラー自体にも長岡花火公式アプリの波及効果があります。長岡花火公式アプリを作ったことで、実は地元の長岡からフラーの求人に応募が集まるようになったんです。実際に優秀なメンバーに巡り合うことができました。
そういう数字に見えない部分も含めて、新たな広がりが生まれていることは極めて重要です。
櫻井:今回、フラーのものづくりのルーツが長岡花火にあることをあらためて感じることができて、ものすごく良かったなと思いました。これからもこの長岡花火のルーツを忘れずにものづくりをしていきたいですね。