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アプリが生み出すアウトカム 長岡花火公式アプリ7年目の景色(前編)

フラーと長岡花火財団が運営を手がける「長岡花火公式アプリ」が7年目を迎えました。

長岡花火公式アプリは、フラーのデジタルパートナー事業の原点であり、一連のアプリの開発や運営を通じて、その後のフラーのものづくりの形を決定づけるきっかけを数多く生み出しました。

実際にアプリを手がけてきたフラーの作り手は、当事者としてどのような思いでアプリに向き合い、7年に迫る長期運営をしているのでしょうか。冬の長岡にフラーのアプリ運営メンバーらが集まり、語り合いました。
(前編、2023年11月取材、文と写真:日影耕造)

長岡花火公式アプリについて

2017年にローンチした長岡花火公式アプリは、長岡花火に参加するユーザーをメインターゲットとした、大会がより楽しく便利になるアプリです。花火の鑑賞を妨げるものを取り除くとともに、より彩りある思い出を作ってもらえるよう設計しています。

従来はアナログだった花火プログラムやトイレの場所等の会場案内図を記したパンフレットをアプリというデジタルに置き換えた上に、電波がつながりにくい会場でもオフラインで使えるなどユーザー体験の最大化を考慮したUI/UX設計としています。

また、花火打ち上げ後に花火師や運営する方々への感謝を示すとともに、光のグラデーションを同期させることで花火大会全体の一体感を醸成する「なないろライト」を2018年から実装しています。

ユーザーの声などを踏まえアップデートを繰り返すことで、よりユーザーに寄り添い、花火体験を最高のものにするアプリへと成長してきました。

作り手にとっての長岡花火の魅力

(写真左から櫻井、伊津、宮﨑、山﨑)

対談メンバー
櫻井:
フラーCDO長岡高専出身でアプリのデザイン全般に責任を持つ。
伊津:フラーCTO。長岡出身で長岡花火を小さな頃からずっと見てきた。長岡花火公式アプリはフラーのエンジニアとして関わった最初の案件だ。
宮﨑:フラーディレクター。担当ディレクターとしてアプリと花火を見続けてきた。
山﨑:
フラー社長。デザイナーや動画制作班としてアプリに関わる。

櫻井:長岡花火公式アプリの運営期間はどれくらいになりましたか?

伊津:2017年5月リリースなので7年目に入りましたね。

大会期間中、運営小屋(アプリのプッシュ通知や放送などを発信する本部)を離れて観覧席で花火を見ることがあるのですが、フラーに入社した2017年の長岡花火当日は紙のパンフレットを見ているお客さんが圧倒的に多い印象でした。

ですが、6年後の2023年はどこを見てもアプリを開いてプログラムを見るお客さんが増えて、「ああ、この数年で確実に変わったんだな」という実感がありますね。

山﨑:フラーが手がけるデジタルプロダクトの中でも本当に息の長いものになりましたね。

宮﨑:作り手の私たちにとっても特別なアプリです。

(CDOの櫻井は長岡高専出身で、長岡花火にはひときわ愛着がある)

櫻井:そうですよね。作り手の視点でも長岡花火公式アプリは本当に稀有なアプリだと思います。

デジタルプロダクトはスマホやデバイスを通じて不特定多数のユーザーに価値を提供するものです。それだけに、ユーザーが使っている姿を特に作り手が間近で見る機会というのはなかなかありません。

ましてや、何万人ものユーザーが一斉にアプリを使う場面に遭遇することはほとんどないでしょう。

しかし、長岡花火公式アプリは、そんなほとんどないはずのシーンに作り手が直接立ち会うことができます。

(光のグラデーションが同期して色が変化する「なないろライト」)

その代表的なシーンが「なないろライト」です。長岡花火は、花火打ち上げの最後に花火師に感謝の気持ちを込めて光のメッセージを届けます。そこで、長岡花火公式アプリの「なないろライト」を取り出し、何万人ものユーザーが一斉に手を振るんです。

なないろライトの光の色は全て同期して変化するように作られています。あの瞬間、信濃川の河川敷の左岸・右岸の両方に、大きな光のじゅうたんができるんです。

そんな形で自分たちが手がけたアプリを使ってくれてる何万もの人を間近で見られることは、自分が最も当事者意識を感じる瞬間ですし、長岡花火はフラーで大事にしている「当事者意識」をまさに体現しているプロダクトだと思います。

(2023年の長岡花火「光のメッセージ」。なないろライトが光を形作った)

山﨑:僕も同感です。アプリが生み出す圧倒的な光のメッセージを目の前にして、本当に多くのユーザーの行動を助けていることを作り手としても当事者としても体験する、すごくいい機会だと感じています。

櫻井:長岡花火公式アプリの「なないろライト」はいつから搭載されたものですか?

伊津:2018年の2回目のアップデートですね。

櫻井:どうやって生まれたのですか?

山﨑:実は、なないろライトは他のアプリから機能を受け継いだものなんです。

フラーが長岡花火公式アプリを手がけた時、長岡花火の非公式アプリが存在していて、その中にあった機能の一つが「なないろライト」でした。

フラーが長岡花火公式アプリの開発をしている中で、ちょうどそのアプリの作者からアプリをストアから落とすことを考えているので、長岡花火公式アプリの方にこの機能を継承してくれないかとの依頼があったんです。

そのなないろライトの考え方を生かして、色のブラッシュアップや、色が切り替わるタイミングの端末間の同期といったアップデートをして長岡花火公式アプリに機能を搭載したのが2018年でした。

善意のつながりからアプリの大切な機能が受け継がれ、アップデートされ続けてるのはすごく素敵なことだなと思います。

当事者体験が生み出すもの

山﨑:当事者意識から生まれた機能の代表は、花火のプログラムの“オフライン表示”です。当初はWebベースのオンライン表示でした。

アプリ1年目の2017年は会場の混雑によって携帯やスマホの電波が全然つながらず、アプリを立ち上げるだけで精一杯でした。

現場で全くつながらない状態をフラーのメンバーは目の当たりにしましたし、「せっかくインストールしたのに花火のプログラムが見れない」とストアのレビューでも厳しいご意見をいただきました。

そんな反省をもとに、次の年のアップデートでは、オフラインでもプログラムが表示できる機能を取り入れました。

櫻井:初回から現場で相当な気づきがありましたね。
大会翌日の早朝ゴミ拾いもアプリ1年目から参加していますよね。

(2023年の長岡花火の翌日の早朝ゴミ拾いに参加するフラーのメンバー)

山﨑:はい、自分を含む当時のプロジェクトメンバー4人全員で2017年に参加したのが始まりです。アプリの一番のユーザーとなるであろう長岡市の方々のことを知るためです。

会場はどんな雰囲気なのか、どんな人たちが携わってるのかを知るためにできるだけ現場を体験しようとゴミ拾いを始めた形です。

年を重ねるごとに事務局の方に覚えてもらって、現場で「フラーさんですね!」と声をかけてもらえるようになりました。素直に嬉しいですね。

(2023年は20人近いメンバーが参加した。右は長岡花火財団の職員。忙しい中にもかかわらず声をかけてくださった)

櫻井:ゴミ拾いそのものはアプリの運営とは直接関わらないところですが、スタッフの方の苦労や現場のことを理解しながら、ヒトに寄り添いアプリを作るという意味で、現在まで脈々と続くフラーのモノづくりの一番の原点になっているように感じます。

宮﨑:新入社員の中には「このゴミ拾いがしたくて入りました!」という人もいますしね。

櫻井:たしかに!デザイナーの採用説明会でのゴミ拾いの話が印象に残ったという人が多いですし、今年も熱烈にゴミ拾いをしたいという人がいましたね。

(運営小屋をバックに、早朝ゴミ拾いに参加したメンバーで記念撮影)

山﨑:それぐらいフラーを象徴する文化になったことは嬉しいですね!

宮﨑:私たちがゴミ拾いなどのユーザー体験を行うのは長岡花火公式アプリ利用者や花火観覧者の気持ちを理解する、という面だけではありません。

運営側である長岡花火財団の幅広い業務を「知る」「理解する」ことも大事な目的です。

このような積み重ねが、財団から「フラーは、財団の仕事を理解しようとしてくれているから、アプリ以外の幅広い相談をしても大丈夫だという気持ちになれる」という言葉につながっています。

運営側になって初めて知る花火の苦労と魅力

(伊津は長岡出身で、小さな頃からずっと長岡花火を見てきた)

櫻井:伊津くんは長岡市出身で、小さな頃からずっと長岡花火を見てきていると思います。そんな伊津くんが長岡花火にかかわるデジタルプロダクトを作るというのは、どんな気持ちなのですか?

伊津:自分の実家は花火大会の会場に近く、当日打ち上がる花火の様子を毎年当たり前のように見ていました。

しかし、純粋に見る側であったが故に、運営側の苦労というのは子供の頃や学生だった時は正直あまり気にしていませんでした。

早朝のゴミ拾いにも僕自身は参加したことがありませんでした。自分が通った小中学校は早朝のゴミ拾いに参加していなかったのです。

フラーに入って長岡花火公式アプリに関わり、ゴミ拾いに参加するようになって、あらためて長岡花火の運営の大変さを学んでいるなという思いです。

(2023年の長岡花火開催前の河川敷。ブルーシートが広がる)

櫻井:小中学校の時、花火は実家から見ていたのですか?

伊津:会場の近くまで歩いて行って見ていました。河川敷には入らず、その周辺で見ることが多かったですね。

それだけに、河川敷の会場内が実際にどんな様子なのか、運営がどのようになされているのかといった細部についてはしっかりと見る機会はありませんでした。

そういう意味でも、アプリに関わるようになってから現場に行って見て学んだことが圧倒的に多いです。

山﨑:いま、伊津の言葉にもあったように、現場に行かないと知ることができないことが長岡花火にはたくさんあります。そこににじむ魅力やありのままの姿が、現地に行った人でないとなかなか伝わらないという状態は、とてももったいないなと感じたんですね。

そんな思いもあって、フラーが制作した“素顔の長岡花火”に焦点を当てた長岡花火の公式PR動画の中には、伊津が話していた河川敷の外のシーンを入れました。

山﨑:一般的な花火のPR動画というのは、綺麗な花火が打ち上がる様子が映像で流れるものが多いと思います。

もちろんそれはそれで美しいのですが、長岡花火の本当の良さは、打ち上がってる花火を街の中でたくさんの人が見ている様子や、一体感を持って花火を楽しむ姿、そして見物客の誘導やゴミ拾いボランティアなど花火を支えるたくさんの人々の姿にあるのだと、アプリ作りのために何度も長岡に通う中で思い至りました。

そんな長岡花火の素顔を全部伝えようと、長岡花火財団の公式YouTube向けに「動画で伝えたい素顔の長岡花火 夏」という動画を制作したんです。

(長岡花火の会場となる河川敷。冬は新潟特有の曇天の中、静かな時間が流れる)

宮﨑:そもそものきっかけは、インバウンドのお客様向けにPR動画を作りたいという相談を長岡花火財団からいただいたことでした。「フラーさんって動画制作もできますか?」みたいな感じでカジュアルに聞かれたのが始まりだったと記憶しています。

山﨑さんがお話したように、フラーが提案した絵コンテ(動画の撮影前に撮影シーンやカットの流れを大まかにまとめたもの)は、花火打ち上げ場面以外の長岡のシーンがたくさん入ってたものでした。

山﨑:あの動画は新潟のことや長岡のことを知ってる人にしか作れない動画にしたいと思って、消雪パイプで雪を溶かす水が出てくるシーンとかもちらっと一瞬だけ入っていたりと、長岡にしかないものを取り入れたりしています。

櫻井:その視点、アプリを開発する会社の視点じゃないね(笑)。

山﨑:間違いない(笑)。長岡花火の姿をさまざまな視点で見ている自分たちでなければ撮れないシーンを動画に収めることができたんじゃないかなと思います。

伊津:長岡出身の自分が最初にあの動画を見たときに、率直に懐かしいと思いましたね。

山﨑:それはすごくうれしいですね!

宮﨑:動画の中で印象に残ってるのが、長岡花火の警備員さんのシーンです。

このシーンは当初、長岡花火財団から「カットして欲しい」と言われたんですね。あまりにも裏側の姿過ぎるということで。でも、フラーのメンバーは「絶対にカットしたくない、こういったシーンこそが大事なんです」と粘り強く説明した記憶があります。

山﨑:あれは動画の名シーンの一つですものね。あのとき丁寧に説明していただいてありがとうございます!

櫻井:動画は長岡花火公式YouTubeチャンネルで公開していますが反響はどうですか?

山﨑:11月時点の再生回数はショート版と合わせて合計22万回以上で、同チャンネルの中で最も再生回数の多いコンテンツの一つとなっています。

長岡花火の季節になると毎年確実に見られているといった形です。

櫻井:X(Twitter)でも動画について「感動した」「泣いた」といったポストをして下さっている方が何人もいましたね。

山﨑:PR動画を撮った翌年の2020年にコロナが発生し、長岡花火も2年に渡り中止となりました。そういう意味でも、あのタイミングで動画制作ができたのは本当に幸運でしたし、長岡花火が開かれない中でもその魅力を伝える動画を作れて本当によかったなと今振り返ると思います。

櫻井:アプリの開発・運営を通じて長岡花火財団と信頼関係ができていたからこそ、動画制作のお話をいただけたんじゃないかなと思います。

クライアントとの関係を大切にしているからこそ生まれる共創の広がりは、最初のプロダクトである長岡花火の時からだなと思います。いまに続くデジタルパートナー事業の原点はここから生まれたんじゃないかなと。

フラーのミッション「ヒトに寄り添うデジタルを、みんなの手元に。」にもつながる話だなと思います。

山﨑:そう思います。フラーにとってはアプリを成功させることだけが目的じゃなくて、長岡花火自体を成功させることが目的です。

クライアントの事業の成功に寄り添うというマインドが会社の文化として根付き始めたのはやっぱりこの長岡花火公式アプリからですね。

アプリが生んだユーザーとのつながり

(取材は完成したばかりの米百俵プレイス・ミライエ長岡のイノベーションサロンで行った。)

櫻井:ユーザーやクライアントの成功に寄り添うという意味では、アンケート機能も大きな役割を果たしていると思います。これはどんなふうに始まったのですか?

伊津:長岡花火財団の方から声が上がったのが始まりです。これまで花火大会について観客からアンケートを取るということ自体がそもそもなかったので、まずはアプリを通じてやってみたいという話でした。

櫻井:どれくらいのユーザーがアンケートに答えるのですか?

山﨑:だいたい平均すると毎年約8000人が回答してくれます。

宮﨑:アンケートでは長岡花火全体の改善要望のほか、「今年もありがとうございました!」という感謝の言葉が数多く寄せられます。そういった訪れた観光客の話を直接聞く機会は、アプリ以前にはありませんでした。

一般の方の声と運営側との仲介役・橋渡し役にアプリがなっているのは嬉しいことだなと思います。

櫻井:アプリだけでなく、長岡花火というリアルイベント自体のアップデートも、アプリがきっかけでできるようになってきているということですね。アウトカムのあるデザインを体現しているというか。やっぱりアプリだからこそできることですね。

(フラーニュースリリース:「長岡花火公式アプリ」がグッドデザイン賞を受賞 より)

山﨑:そんなアウトカムがあるデザインの積み重ねが2023年度のグッドデザイン賞受賞につながったことは、フラーとしてすごく喜ばしいことだなと思います。アプリのグッドデザイン賞で、リリースしてから7年近く経ってから受賞するものってあまり他にないんじゃないかな。

櫻井:7年間ずっと作り続けてるアプリというのは独特ですしね。

山﨑:グッドデザイン賞をきっかけに長岡花火を知ってくれる人も出てくるかもしれないですし、さまざまな形でそうやって長岡花火に貢献できるのはフラーにとっても嬉しいことだと思います。

このアウトカムのあるデザインが、イベントにおけるアプリの作り方やデジタルとの向き合い方のロールモデルになれたら素敵だなと思います。(後編に続く


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