トータルの体験をデザインするということ。フラーの内定証書のデザインプロセス(前編)
10月に開いたフラーの2023年新卒内定式で手渡した内定証書。フラーのデザイナー組織「フラーデザイン」のデザイナーが作成したもので、社内コンペで選ばれました。
フラーのデザイナーはどんな思考やプロセスを経て一つのものを創り上げるのでしょうか。普段はなかなか見えにくいフラーでのデザインの過程について、内定証書を事例に紹介します。
前編では今回のデザインを手がけたデザイナーが着想から制作、納品までを語ります。
『フラーから生まれた花束』を贈る
今回の内定証書のデザインは、入社2年目のデザイナー・久保楓さん(新潟本社所属)が手がけました。
内定証書はフラーのロゴのフラーレンを軸にした花で構成されています。 「私どもからみなさんへ『フラーから生まれた花束』を贈るということです」と久保さん。社会人として新しいスタートを踏み出す内定者のみなさんへの祝福と、 止まることなく進む覚悟と期待を込めたとのことです。
久保さんは「時にはお互い助け合いながら、 自由に力を伸ばしてフラーのメンバーとして活躍してくれることを願っています! 来年の4月にみなさんにお会いできることを楽しみにしています」と内定式にメッセージを寄せました。
↓↓↓内定式の様子はこちらの記事からどうぞ↓↓↓
コンセプトは学生と社会人の気持ちの変化から
久保さんはデザイナーとして実際にどのようにアイデアを生み出したのか、完成に漕ぎ着けるまでにどんな試行錯誤の過程があったのか、ざっくばらんに語ってもらいました。
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今回の内定証書の仕様は「新卒内定者が内定証書を受け取った時に、フラーへ入社が楽しみになるような、わくわく・どきどきでかっこいいデザインをお願いします!!!」というシンプルなもの。ゼロから自由に作れる反面、全てを自分で考えなければいけないという難しさがありました。
個人的なコンペ参加の動機は「先輩からすすめられたから」というどちらかというと消極的な感じでしたが(笑)、結果として得るものが大きい体験となりました。
私のフラーでのデザイナーとしての仕事のメインはスマホなどデジタルのデザインです。普段はFigmaを使って画面上でデザインしますし、確認や実際の利用もスマホなどの画面です。それだけに、このデザインコンペに参加するにあたっては、いつもと違って今回は実際に手に取れるものをデザインするんだということをまず強く意識しました。
その上で、コンセプトを策定するために2年前に自分が学生でちょうどフラーから内定をもらった時のことを振り返ってみました。
当時は「企業からの内定=ゴールであり祝福」という思いが圧倒的に強かったのですが、社会人になって実際にフラーで働き始めると、学生の時の思いとは違った世界がありました。内定は全然ゴールじゃなくて、むしろ会社に入ってからがスタートだなと。今考えると本当に当たり前のことなのですが(笑)。
「おめでとう!あなたに内定を贈ります!」いう祝福の気持ちだけをデザインで表現するのも良いとは思うのですが、フラーの内定者として引き締まった思いで気合を入れて社会人生活をスタートしてほしいという思いが新卒入社2年目の社員として根底にあることに気がつきました。
そこで、今回の内定証書のコンセプトは新しい生活への祝福と、ここがスタートラインであるということを表す「NEW\START」としました。
内定書だけではないトータルの体験を考慮したデザイン
今回の内定証書は普段のデジタルプロダクトデザインと違い、“ものとしてたしかな質感とともに手に取れるものである”という重要な要素があります。
加えて、内定証書はそれ自体に価値があるのではなく、人生の中で貴重な忘れられない体験を司るしかけの一部です。
そこでコンセプトをデザインとして具象化するにあたっては、内定者の気持ちや身体的な体験を含めたトータルの内定者体験をデザインすることを念頭に置きました。
実際のプロセスとしては、まず「おめでとう」という気持ちを言語化して形あるものにしていく作業をしました。「おめでとう」といえば「お祝い」→「お祝い」といえば「花束」→「祝福の中に花束を」ーーといった連想から、花のモチーフが浮かび上がってきました。
実際の行為の面からも、思考を深めていきました。「証書を渡す」という行為は、それ自体が花束を渡す行為に近いことを踏まえ、祝福を意味する花束を内定証書のモチーフにあしらうことにしました。
この「花束」という形を思いついたのは、特別なエピソードがあったわけではありません。私の場合、何か強烈なきっかけがデザインのアイデアにつながるというよりも、普段の生活や何気ない行為や記憶の中から着想することが多いです。
今年の内定証書も、社長のまーしーさん(社長の山﨑のニックネーム)が内定者に対してお祝いではなく「フラーをしっかり頼む」みたいな感じで気合を入れて話をしたエピソードを聞いて、「内定というのはただのお祝いでないのだなあ」という気持ちがどこかに残っていて。その気持ちを普段の生活の中でずーっと考えていた形です。
ちなみに、私の場合、何か特別でかっこいいアイデア発散のツールがあるわけではありません。とってもアナログですがお風呂の中でぼんやり着想しました(笑)。
“時間”を強く意識、何を差別化ポイントにするか考えた
ラフデザインに落とし込んでいく際に意識したのは、内定者が見るだけでなく、写真を通じてさまざまな人が遠目から見る可能性があるということです。
その点で花束というのは遠くから見ても綺麗ですし、内定証書が特別なものであることが一目でわかります。内定証書を受け取った内定者だけにとどまらず、写真を撮影したり、その写真がSNSなどで紹介されることも想像しながら、渡すシーンやその後の拡散を含めたトータルの体験としてデザインが価値を発揮できるように注力しました。
作業面で強く意識したことは、やはり“時間”です。
コンペ開始からラフデザインの提出締め切りまでは10日程度、採択された場合はラフデザインをブラッシュアップして印刷して完成品を納品するまで2週間程度と非常にミニマムなスケジュールでした。
普段はクライアントワークをしっかりとこなしながらも、内定証書がコンペで採択された場合には最速で形にできるようにするため、最初のラフデザインの時点である程度完成形に近いクオリティのものを出すことにしました。
また、今回はコンペで他のデザイナーとの競争でしたので、すでにラフでありながら作り込んでいるというところも提案時の差別化ポイントになると考えました。
フラーでないと成立しない要素を織り込む
花束というモチーフは確定しましたが、ここからその花をさらに今回のフラーの内定証書向けにビジュアライズしていく過程が待っていました。実は今回、コンペの要件・仕様とは別で、一つの課題を自分自身に設定しました。それは「フラーでないと成立しないデザインを考える」ということです。より良いデザインを生み出すための自分の中の目標であり、他のデザインとの差別化を図る自分だけの武器でもありました。
具体的には、フラーのロゴであるフラーレンを軸に伸びやかに広がり続ける花をイメージするとともに、ワープっぽいデザインとすることで先進的なイメージを表現しました。
一般的に花というのはかわいくて女性的というイメージがあるかと思いますが、フラーというもののイメージはどちらかというとかっこいい方に近いかなと思い、自分なりに工夫をしてみた形です。
今回のコンペで優勝作品に選ばれた後の納品に向けたブラッシュアップの段階では、ラフデザインとは違うさらにフラーらしい色を考慮した末、“信頼”を示すフラーの青、“挑戦”を示す攻めたピンク、“寄り添う気持ち”を示す優しいパープルの3つにしました。仲間を信頼し、お客様にも信頼され続ける、フラーの社員として挑戦し続ける、プロダクトに寄り添い続ける、そんな意味を込めました。さらにグラデーションをつけて変化も出しました。
メインの花のビジュアライズに加え、内定者が手に持って写真を撮影した時に目立つようにするとともにコンセプトがストレートに伝わってくるようにするため、キービジュアルの花の下にコンセプトのテキスト「NEW/START」をそのまま生かしたロゴを配置しました。
ロゴは表面の花の配置から逆算してバランスの良い形に配置しました。また、ロゴデザインの一部は花の茎になっています。当初は3つの花それぞれに茎を配置していましたが、一つにした方がシンプルな引き算で美しいなと感じ、思い切って一つにしました。さらに、動きを出していくためにロゴの「N」を横にのばして疾走感を出しました。
裏面は表面で使っていた花の線のワープ表現は細すぎるのでやめたりといった細かな調整をした上で、思いを込めて一気に文言を書いて加えました。ここは本当にタイトなスケジュールの中で思い切って進めた感じでした。
アナログの印刷は入念に準備
ここでいつものデジタルプロダクトデザインにはない「印刷」という工程がありました。「ものとしてたしかな質感とともに手に取れるものを創る」という普段はやらない工程だけに、ここは個人的にかなり準備して臨みました。
具体的には、納品物は紙なのでスペーシングや印刷の刷り上がり具合など現物でのチェックをしっかりすることを重視しました。また、体験価値を最大化するため、内定証書を入れるケースまでどれがいいかまで慎重に検討しました。
現物の印刷については、私がいる新潟本社でも、最終レビューをする社長のまーしーさんやCDOの櫻井さんがいる柏の葉キャンパスでも同じものを手に取れるようにするため、全く同じ印刷用紙をそれぞれの本社に発注して送り、柏の葉本社にいる後輩デザイナーの手を借りながら両社内で全く同じ設定で印刷。レビューでOKが出た後にkinko’sで試し刷りを1回した上で最終納品物の印刷に臨みました。
最後まで妥協しないという思い
完成した最終納品物を目の前にして、まずは「やりきったなあ」という感じがしました。テーマに合わせて自分が考えた表現を作り切るというところ、アトリエに篭ってがむしゃらにやる感覚が学生の時の制作を思い出させました。クライアントワークとはまた違った視点で、通常の仕事だけでは得られない体験をコンペを通じて得られたなと感じています。
個人的に心に残ったことは、内定者に手渡して写真に残す体験まで考え抜くことを含めて、自分で目標を設定して、フラーでないと成立しない内定証書を作り切ったこと、それを喜んでいる人がたくさんいたということです。
一連の最後まで妥協しないという思い、そしてアナログで手元に届くものを作る感覚は、他のクライアントワークでもきっと活かせると思います。
バトンを渡していくという意味でも、来年以降はぜひ、内定証書を新卒1年目のデザイナーが作ってフラーの伝統としてできたらいいんじゃないかなと感じています。
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後編ではデザインコンペを主宰したCDO櫻井や先輩デザイナーが狙いや思いを語りました。ぜひご覧ください。
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入社後半年が経過した22年新卒社員へのインタビューもぜひどうぞ。
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