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「あなたのまち」を手の中に 中日新聞社の生活圏情報アプリ「Lorcle」開発秘話

株式会社中日新聞社が提供する生活圏情報アプリ「Lorcle(ロークル)」。フラーは中日新聞社のデジタルパートナーとして、Lorcleの企画やデザイン、開発といったアプリローンチにいたるまでの幅広い支援を展開し、ローンチ後もアップデートや改善に向け伴走しています。

アプリづくりの裏側で、両社のアプリ責任者・担当者はそれぞれどのような思いで取り組んでいるのでしょうか。Lorcleの開発秘話を伺いました。(敬称略、中日新聞社にて取材)

中日新聞社 新ビジネス推進局Lorcle事業部
仙波功介(せんば・こうすけ)
1994年入社。経営システム部で会計システム、文化センター、人事、労務システム、ポータル、ワークフロー等を担当。2017年から経理部を経て2024年7月から現職。

中日新聞社
藤田俊広(ふじた・としひろ)
1988年入社、名古屋本社機報部や報道システム部で取材支援、紙面制作系システムを担当。2018年度に日本新聞協会技術委員会情報技術部会長。技術局を経て2023年10月から現職。

中日新聞社 新ビジネス推進局Lorcle事業部
中尾吟(なかお・ぎん)
2008年入社。岐阜県関支局、大津支局、名古屋本社社会部などで行政、警察などの取材を担当し、秘書部、新規事業部を経て、2024年7月から現職。 

フラー
シニアディレクター
榊原信也 (さかきばら・しんや)
東京都出身。大手メディアにおいてデジタルコンテンツを中心に企画・運営や制作管理などディレクター業務を経験したのちに2020年フラーに入社。フラーでは大手アウトドアブランドの公式アプリをはじめ様々なプロダクトのディレクターを担当。

フラー
ディレクター
田中秀(たなか・しゅう)
1994年生まれ、東京都出身。ゲーム業界でキャリアをスタート。
企画やプロデュース業務を経験後、2022年にフラー入社。
ディレクターとして複数のプロジェクトでアプリ制作のディレクション業務を担当。

フラー
デザイナー
久保楓(くぼ・かえで)
長岡造形大学視覚デザイン学科卒、新潟県長岡市出身。在学中フラーで一年間アルバイトとして業務に携わり、その後2021年度新卒デザイナーとしてフラー株式会社へ入社。リードデザイナーを務めるLorcleのほか子供向けのスマホアプリやWebアプリのデザインを担当。

「地域」をキーに、情報と参加者が集まるアプリに

(左より)仙波氏、藤田氏、中尾氏

——ご担当されてきた業務やLorcleでの役割についてお教えください

仙波:
これまで社内で経営システムの設計などを手掛けてきました。中日グループ各社が持っているさまざまなデータを一箇所に集め、その利活用を可能にする 「中日CDP(カスタマー・データ・プラットフォーム)」を構築するプロジェクトを手掛け、現在は7月に新設されたLorcle事業部の部長を務めています。私は今年で入社30年目ですが、その節目に面白い仕事に携われたなと思っています。

藤田:
プロジェクトの予算調整やシステム設計を主に担当しています。新聞で使う素材管理や組版など紙面制作システム作りやシステム更新のプロジェクトマネージャーなどを歴任しました。

中尾:
私は社会部で記者として活動したのちに、CDP構築プロジェクトに加わり、そこからCDPに端を発するLorcleプロジェクトのメンバーとなりました。本件の中日新聞側のディレクターのような役割を担っています。

中日新聞社のLorcleプロジェクトの中心メンバーは10人ほどですが、プロジェクトに関わりを持つ人間としては地方支局や営業を含めて100人ほどになります。

(左より)久保、田中、榊原

ーーフラー側はいかがでしょうか?

田中:
ディレクターとして今回は主にフラー社内のスケジュール管理や調整等を担っています。

久保:
リードデザイナーとして、他のデザイナーと協力してLorcleのデザイン全体を作り上げています。

榊原:
リードディレクターとして案件の基本的な全体進行管理や要件定義、中日新聞社さんとの各種調整などを担当しています。

LorcleはCDPを手掛けたフューチャーアーキテクトがバックエンドを、フラーがフロントを担当しました。

フラーニュースリリースより

——Lorcleとはどのようなサービスですか?

中尾:
Lorcleは地域で暮らす際に必要不可欠な、信頼度が高い生活圏の情報を発信するプラットフォームです。アプリ名は造語で、ローカル(Local・地域)とサークル(Circle・輪)を掛け合わせました。

地域に暮らす人々が必要とする「まちの情報」を必要なタイミングで届ける、生活圏に寄り添った正確できめ細かな情報を発信するプラットフォームとして、自治体や事業者など様々な地域の関係者と連携し運営しています。

先ほど少しお話ししたとおり、Lorcleは中日CDPの構築プロジェクトから派生して生まれました。CDPでデータを集約し、今度はいよいよ目に見える形でサービスを提供していく際にどんなスタイルが良いかと考えたとき、「情報と参加者が地域という概念をキーにして集まってくる」ものが良いのではとの思いから、Lorcleを着想しました。

ーーなぜネイティブアプリという形を選んだのですか?

仙波:
インストールというハードルはあるものの、一度入れてもらったら続けて使ってもらえる可能性が高く、ユーザー体験のリッチさやアプリ改善に活用できるデータの深さ、ユーザーのために取れる施策のバリエーションの豊富さ、デザインの自由さといった将来を見据えた広がりがあるからです。

中日新聞ではさまざまなアプリを出してはいますが、今回のように事業部を立ち上げてゼロからネイティブアプリを開発したのは極めて珍しい事例となっています。

中尾:
CDPのデータ分析による裏付けも背中を押しました。自社で運営する施設やイベントのチケット購入でユーザーがどのようなデバイスからアクセスしているのかCDP上で見ると、50代以上の男性を除く圧倒的大多数はスマホ経由でした。

現代社会を生きる人間の営みにおいて、スマホアプリがもはや避けて通ることはできない世の中になっている以上、我々新聞社もその領域に踏み込んでいかなければいけません。

ユーザーベースを大切にする

フラーニュースリリースより

——Lorcleがローンチするまでにどんな苦労がありましたか?

仙波:
アプリ開発は「こんなにも決めるべきことが多いのだな」と驚くとともに、決めていく過程そのものに苦労もしました。

アイコンひとつとっても基本となる色をどうするのか?文字数は?要素や表記は?動きは?といった具合に、決めるべき細かい事柄がたくさんありました。決める事柄が多いゆえに、正直、開発の初期は特に「なかなか進まないな……!」とすら思っていました(笑)

とても大変ではありましたが、今考えるといい経験でしたし、どれも必要性があってのことでした。先を見据えてフラーさんが色々とこだわってくださったこともあり、UI/UXは社内外から非常に好評です。

久保:
デザインの力で品質を担保するのはデザイナーの大切な仕事の一つです。細かい点であり、大変な部分ではあったのですが、文字数などを最初にしっかり決めさせていただきました。使いやすく魅力的なアプリのUI/UXに効いてきますし、だからこそ考え続けなければいけない課題であると感じています。

田中:
ベースとなるWebサイトをアプリ化するケースも多いのですが、今回はアプリとしては完全にゼロから新規で作り上げるプロダクトでした。

それだけに自由に夢が広がる一方で、折り合いを付けなければいけない部分も存在します。デザイナーとして実現したい仕様があってもエンジニア側としては避けたい…といった場合の調整やフラーとしての判断をしなければいけない、といったケースです。

そういった論点に折り合いをつけつつも前に進めていくことは大変でしたが、ディレクターの腕の見せ所でもあったと思います。

榊原:
新規のアプリ開発の肝は「要件定義」です。まっさらな状態で夢が広がる中、現実的にどのような機能に落とし込んで価値を最大化させていくことが何より重要です。そのためにはやはり時間と労力を集中させることが必要になりますし、産みの苦しみがあったなと振り返ると思います。

実際、1年ほど前の立ち上げ時は半日かけて一気に集中して話し合ったり、週に2、3回のペースでミーティングさせていただいたりと、要件定義にしっかりと時間をかけさせていただきました。

仙波:
集中ミーティングをしたのはちょうど1年前の夏でしたね。記事のソートをどうするかと言った大小さまざまな事柄について時間をかけて議論したのを覚えています。

榊原:
中日新聞さんという東海地方でとても多くの読者を抱える新聞社のアプリとして相応しいものを作らなければといったプレッシャーは、フラーの中でも相当大きなものでした。

中日新聞をお読みになられているのはどのような方々なのか、そのあたりの解像度を高めることから始め、中日新聞社さんと認識を合わせ、ユーザーベースを大切にしながら取り組みました。

中日新聞のプロジェクトに関わる皆様のご理解・ご尽力と優秀なメンバーの働きでここまで確実に前に進むことができています。

今回のプロジェクトではLorcleのアプリ本体だけでなく、新聞広告やチラシ、販促物などアプリと取り巻くさまざまな製作物についてもフラーにお任せいただきました。非常に責任感とやりがいを感じながら取り組みました。

フラーが手掛けたLorcleのチラシ

——初めて実機で確認できるものが仕上がった時はどんな気持ちでしたか?

中尾:
自治体さんや企業さんには、まずfigmaでのデザインの状態、その後プロトタイプ、そして最後に完成版のアプリをお披露目するという形で段階を踏んでお見せしていったのですが、次のステップに行くたびに期待感が上がっていくのを感じました

実際に出来上がった完成版のアプリは、figmaでデザインしたものと同じ思い通りのものとなっていました。実はここにまず驚きました。

実は仙波と私は、フラーさんとつながりができる前、自分たちなりにアンドロイドスタジオを使ってアプリ作りについて勉強したのです。

アプリ開発の実務作業が実際にどのような流れで進むのか知っておきたかったですし、あわよくば自分たちだけで作れたりしないかなと思っていました。しかし、結論として自分たちでアプリを作れなくはないのかもしれないけれど、これはかなり大変なんだなという思いにいたりました。

フラーのみなさんにとっては当たり前なのかもしれませんが、当初のデザイン通りに設計されて動くものができ上がるというのは、シンプルにすごいことです。

アプリ全体としても、社内の人間にも自治体や企業の方々にもとても受けが良いです。

Lorcleはアプリを通じて情報発信が非常に簡単にできるシステムです。アプリに情報を出すのはどうしてもハードル高いと思ってしまいがちですが、今回のシステムでは公開ボタンを押すだけで誰でもできます。

実際、Lorcleを活用した自治体との情報発信連携協定の調印式でも、各自治体の首長が自ら記事を公開しました。

Lorcleを活用した自治体との情報発信連携協定の調印式。首長が自ら記事を公開した
Lorcleを活用した自治体との地域連携協定の調印式に参加した両社の代表ら

Lorcleで目指す「脱プラットフォーム」

——Lorcleの利用はどのように広がっているでしょうか。現在の状況をお聞かせください。 

中尾:
Lorcleを活用した発信を手掛けている自治体は東海3県を中心に約70の県市町村にまで広がっています。活用自治体の増加とともにアプリのユーザー数も着実に増えており、東海地域にとどまらないアプリになるという手応えもあります。

藤田:
地元の情報を知りたいという目的でLorcleをインストールした海外在住のユーザーもいます。きめ細かで信頼できるローカルの情報へのニーズの高さを感じています。

——今後どのような展開を見据えていますか?

中尾:
現在は東海3県の一部の自治体ですが、自治体が増えればその分だけより多くの住民の皆様にLorcleをご利用いただけるようになります。

ユーザーを増やすためには新たな自治体の開拓が欠かせませんし、アクティブユーザーをしっかり増やすことも大事です。どうやってアプリを開いてコンテンツを見てもらうか、そのために記事やアプリの機能など今のコンテンツで満たすことができるのかといったことをしっかり考えていく必要があります。

未来の少し大きな話をすると、Lorcleの取り組みが育ってくれば、大手のニュースサイトやポータルサイトに過度に依存しない“脱プラットフォーマー”のようなことも可能になってくると考えています。

全国の新聞社がこのLorcleの仕組みを生かして連合を組んでいけたらと願っています。

藤田:
Lorcleの取り組みの輪をさらに広げるためには、発信する側の“スイッチ”が入るような取り組みも必要だなと思います。

例えば、それぞれの自治体での作り手のネットワーク・コミュニティーの形成です。自治体同士でつながれば、さらに魅力的なLorcleの活用方法が共有されて、相乗効果で広がっていくのではないかと思っています。

仙波:
Lorcleは、ご参加いただく自治体からのご協力金と広告からの収益が柱ですが、収益にばかり意識がいってしまうと、どんな広告でも掲載してしまう信頼性に乏しいアプリになってしまいます。

Lorcleは、信頼できる地域の情報を出す安心・安全な空間にし続けたいと強く思っています。この点はアプリを作り運営していく上で、一番こだわらなければならない部分です。

ローカル(Local・地域)での信頼と安心・安全にこだわりながら、サークル(Circle・輪)が形作るLorcleのロゴマークのように、自治体や新聞社の輪も大きく広がっていったら良いですね。

ユーザーをこれからも伸ばしていきたいですし、将来の全国展開を見据える中での機能改善も継続して行っていきたいです。そのための知恵をフラーさんにお貸しいただければと思います。

田中:
弊社メンバーからも、「自分の住んでいる県にこのサービスが早く欲しい」という声がよく上がりますし、本当にどこの自治体でも求められるサービスだと思います。Lorcleを広げるお手伝いをしていきたいです。

久保:
私もデザイナーとしてまだまだより良くしたいところがたくさんあります。良い結果が出るようこれからも妥協せずにやっていきたいです。

——フラーが伴走してよかったこと、課題に感じたことは何ですか?

中尾:
アプリ開発に関わるさまざまなことはもちろんのこと、アプリにとどまらずチラシや販促物、新聞広告のデザインまで幅広く手掛けていただき、非常に頼りにさせていただいていますし、柔軟にご対応くださってとても感謝しています。

取材の直前に開いたオフラインミーティングに参加した両社のメンバー

藤田:
あえて課題をあげるとしたら、今回のプロジェクトはオンラインミーティングが多かったのですが、オフラインで話す機会がもっとあれば細かな相談がしやすかったかなと思います。

オンラインだと微妙なニュアンスや「こんなつまらない質問しちゃいけないかな」などと遠慮してしまう部分もどうしてもあります。距離などの制約もありますが、オフラインでお会いできる機会が多ければより良いかなと。

榊原:
おっしゃる通りです。今回のアプリ開発に関するコミュニケーションはオンラインが基本で、リアルのミーティングは3ヶ月に1回ほどのペースでした。もっと対面でコミュニケーションを取れるようにしていきたいですね。

何と言ってもアプリはリリースしてからが本番です。引き続き貢献できればと思います。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございます!もっと詳しくフラーを知ってみませんか?