アプリがもたらすこれからの銚子丸らしさ。「銚子丸 縁アプリ」開発秘話
株式会社銚子丸が手がける、すし銚子丸の新たな公式アプリ「銚子丸 縁(えん)アプリ」。フラーは銚子丸のデジタルパートナーとして、アプリの企画・デザイン・開発を支援しています。
アプリづくりの裏側で、両社のアプリ責任者・担当者はそれぞれどのような思いで取り組んでいるのでしょうか。「銚子丸 縁アプリ」の開発秘話を伺いました。(敬称略、記事=日影耕造、写真=島、日影)
「銚子丸らしさ」を追求したアプリを
ーー「銚子丸 縁アプリ」での役割を教えてください。
川村:アプリのプロダクトオーナーという立場で、プロジェクト内のあらゆることを担当しています。プロジェクトについて会社に理解してもらい、必要な人員や予算を確保するのも私の大きな役割です。
福井:アプリを活用した販促のほか、アプリのフロントにおける各種情報の見せ方やお客様であるアプリユーザーへの共有の方法などを考え実行するのが大きな役割です。特に「銚子丸らしさ」をどうアプリ上で表現していくのか、お客様に向き合ってきた経験を生かして取り組んでいます。
南:ディレクターとしてアプリの企画から開発まで担当し、ファーストリリースをご一緒させていただきました。「銚子丸 縁アプリ」にはフラーからはエンジニア、デザイナー、ディレクター合わせて15人ほどが参加しており、フラー社内の中でも規模の大きなプロジェクトとなっています。
大木:リードデザイナーとしてアプリや販促物など今回のプロジェクトにかかわるデザイン全般を担当しました。デザイナーは私を含め2人がフラーから参加しています。
ーー「銚子丸 縁アプリ」をローンチする前はどのような課題がありましたか?
川村:銚子丸はありがたいことにたくさんのお客様が熱心なファンになってくださっています。本当に感謝しています。
一方で銚子丸は、店頭にお越しくださったすべてのお客様に対する施策が中心で、銚子丸のファンになったお客様に向けて深く掘り下げた施策はこれまであまり多くありませんでした。
店頭で把握できることは色々とあるものの、熱心なファンになったお客様がどういう形で銚子丸をご利用くださっていて、どのようなご要望をお持ちになっているのか、会社としてしっかりとつかめていない状況でした。
また、銚子丸のお客様ごとのご来店頻度は1ヶ月に1回、多くとも1週間に1回の場合がほとんどです。他の飲食店さんとは違った部分がありますので一概に比較はできませんが、お客様の来店頻度向上も大きな課題でした。
そこで、お客さまとのつながりを創出するとともに、アプリを通じて銚子丸を感じてもらうことで最終的により多くのお客様にファンになっていただき、お店にご来店いただくきっかけを作りたいとの思いから既存のアプリをリニューアルし、「銚子丸 縁アプリ」を開発しました。
福井:リニューアル前の既存の銚子丸公式アプリは、シンプルな情報発信とクーポンの発出のみのローコストの既存パッケージプロダクトでした。
今回のリニューアルを機に「縁」や「つながる」をキーワードに、銚子丸とお客さまがつながるとともに、お客さまが常にアプリに触れてくださるような、「銚子丸らしさ」を追求したアプリをスクラッチで作りたかったんです。
アプリをきっかけに「これまでの銚子丸」から「これからの銚子丸」に
ーーアプリ開発で苦労した点や成功への手応えを掴んだエピソードを教えてください。
福井:リニューアルしたアプリのコンセプトは「いつでも、どこでも 銚子丸と、もっとつながる」です。 上質な商品や楽しさ・親しみやすさ、安心感・清潔感といった銚子丸の“良質な外食体験”を構成する重要な要素としてアプリを位置付け、お客様がいつでも、どこでも、銚子丸とつながる世界をデジタルを活かして作り上げようと、フラーさんと共創しました。
これまでの銚子丸は店舗の看板などから黄色を主体とするイメージが強かったのですが、コンセプトを一から作っていく中、デザインにおいて「銚子丸らしさ」を重視しながらも、既存のイメージをいい意味で崩しました。
川村:これまでの銚子丸がお客様にお示ししていたのは「会社の内側から見た企業コンセプト」だったんですね。対してこれからの銚子丸は「会社の外側から見えることを考えたコンセプト」をちゃんとお客様にお示ししていく必要があると強く感じ、銚子丸らしさを追求した上であえてこれまでのデザインを崩して新しい銚子丸らしさを打ち出しました。
福井:フラーさんには今まで弊社になかったイメージのものを作っていただきました。評判はとても良いです。ただ、これまでになかったテイストだけに、社内の説得は難しい部分の一つでした。
ーーどうやって社内の理解を得たのですか?
川村:今回のデザインについては、イメージを社内で何度か共有しながらも、細かな部分についてはプロジェクト側にかなり任せていただきました。
具体的には、アプリ企画の初期の段階でコンセプトについて社内説明をして大枠の承認を取ったあと、リリースの約1ヶ月半ほど前に初めて全体のデザインを示しました。これまでになかったイメージだけに、社内からはさまざまな意見が出ましたが、最終的にはプロジェクト側の意向を尊重してそのまま進めさせていただく形となりました。
福井:アプリのデザインと並行してフラーさんが作ってくださった店頭向けのポスターなどを見て、私も「このテイストだ!」と強く思いました。
大木:そうおっしゃっていただけて嬉しい限りです。
川村:まさにこれが今回のアプリ開発による一番の“変革”です。外から見た銚子丸と内から見た銚子丸の間にあるギャップをアプリ・デジタルによって埋めるというのが、まさに大きなテーマなのです。
もちろん、この変革によってすぐに直接的な効果が生まれるわけではありません。でも、最終的にはそれが強みに進化していくと確信しています。
南:
そんな社内でのやりとりや思いがあったなんて、初めてお聞きしました。アプリが現在の形になったのは、ユーザーファーストはもちろんのこと、川村さんや福井さんをはじめとするみなさんの思いあってのことなのだなとあらためて感じます。
それぞれのこだわりを大事にしたアプリづくり
ーー機能の観点ではいかがでしょうか?どんなことを大切にしましたか?
南:アプリのコンセプトを具現化するために入れたい機能が多数ある中から、ユーザーの利便性やその後のアプリの成長を考慮し、一回のリリースでアプリに盛り込む機能の優先順位を決めなくてはいけません。
誰のためにどんな機能が必要なのか、こだわりを持ちつつも取捨選択していく、そのすり合わせは大変でした。でも、そこの部分をしっかり銚子丸さんと丁寧にご相談を重ねられたのがありがたかったことでもあります。
具体的に手応えを掴んだものは、”縦書き”の実装です。
世に出ている他のアプリでもあまり実現されていないものであり、フラーとしてもこれまで作ってきていなかったので、ぜひ実現したいと思い、エンジニア・デザイナーとコミュニケーションを取りながら事前に慎重な技術調査を行った上で実現しました。これは良い経験になりましたし、実際に搭載して良かったなと思います。
大木:デザイナーとしてはコンセプトをどのようにしてホーム画面などに落とし込んでいくか、一番頭を悩ませました。
アプリを通じて銚子丸とユーザーの間の縁がつながること、太くなることをどう表現するかについて、ご相談を重ねながら社内のメンバーとも連携し、最終的に「水引」の形にこだわってデザインをさせていただきました。
福井:デザインひとつ一つに対して、ここはどういう動きをするとか、どういうイメージの方がいいとか、文言をどうするとか、本当に細かいところまでこだわりましたよね。
大木:ホーム画面も、色合いだったり表現の部分の調整で5回ほどご提案と議論を重ねましたね。世界観へのこだわりを感じました。
川村:使う人がどう感じるかというのは本当に重要です。銚子丸の場合、年齢層の少し高めなお客様により多くご愛顧いただいているので、ケバケバしくして宣伝いっぱい載せて……という感じにはしたくなかったのです。
銚子丸 縁アプリの軸はお客様に役立つインフォメーション(情報)です。プロモーション(宣伝)はその時々のイベントについて紹介する程度で十分です。
銚子丸という店にお客様が求めることを考えると、アプリも静かで落ち着いたものがいいなと思っていたので、今回のようなデザインにできて本当に良かったなと思います。
大きく広がった「銚子丸 縁アプリ」の現状と、次への伸び代
ーー現在のアプリの利用動向はいかがですか?
福井:アプリ内のお知らせをご覧いただくという基本のアクションをはじめ、店舗検索やイベント、キャンペーンのご利用、ご来店いただいた際の抽選、こちらからのアンケートへのご協力など、さまざまな機能をご活用いただいている状況です。ユーザーのアカウントも大半がアクティブです。Xでも4万人近い方々にフォローいただいています。
また、ホーム画面のお寿司をお好みのものにご変更できる着せ替え機能が、SNSでもご好評いただいています。活用の幅の広がりを感じますね。
また、営業部署からの提案で新鮮なネタの仕入れ情報をアプリでお知らせするようになるなど、社内におけるアプリ活用への理解が広まってきています。
一方で、特にご年配の方々に向けた説明のわかりやすさという点では、改善点があるのかなと思っています。綺麗で洗練されているがゆえに、そのあたりに課題を感じています。
川村:余談ですが、アプリでは65歳以上のシニア世代のお客様に向けた「シニアクーポン」を配布しているのですが、これは実はシニアのお客様にデジタルを使い慣れていただけたら、との狙いとともに、「ちょっと一緒に行こうよ」と子や孫との家族交流が生まれるきっかけになれば、という思いを込めています。
南:銚子丸 縁アプリは本当に縁を紡ぐアプリだなと思います。ユーザーとお店をつないで、ユーザーの家族をつないで、さまざまな角度で縁を紡ぐのがこのプロダクトの役割ですね。
川村:元々、アプリを作るなら色々な人たちの真ん中にアプリがあって「あとは自由に活用してください」と、そんなスタイルのものがいいと思っていたんです。つながるきっかけをアプリのアップデートとともに、さらに作っていけたらいいなと思います。
銚子丸がアプリで描く未来
ーー今後の展開について教えてください。
福井:現在のアプリはどちらかというと全体向けの情報発信が多いですが、今後は個々のユーザーや個別のお店限定といった形で、より細分化・最適化された情報をお届けできるようにしていきたいです。
より細分化された情報発信への対応は大変な部分ではありますが、アプリに広がりを持たせるためにもしっかり取り組み、お客様と銚子丸のつながりをより強くしていきたいです。
川村:私はアプリをメディアとして捉え、お客様への情報発信の面で何か面白いことができればと考えています。この構想、実はアプリ開発の当初から抱いています。この先アプリのユーザーがさらに増えていけば、より情報拡散力が高まります。いろいろと考えて実行していきたいと思います。
そして究極の目標は、アプリ・デジタルによって「自宅を銚子丸にする」ということです。お家にいながら銚子丸が今どんなことをやっているかがすぐにわかるようにしたい、そんな気持ちがあります。
実はこれはインパクトが大きいことです。競合他社からしたらお店にわざわざ行かなくても銚子丸が何をやっているか、手の内が見られることになるからです。でも、お客様のニーズがあってこそですので、そんなのお構いなしでやっていくつもりです。運営側が勝手に作っているバイアス・垣根を、アプリを活用して取っ払っていきたいなと思います。
南:フラーとしては、デザインや機能開発はもちろんのこと、データ活用のお手伝いをより積極的にさせていただければなと思っています。アプリを通じて日々蓄積されていくデータを、お客様の満足度を上げるために積極的に活用していくお手伝いができればと思います。
福井:フラーさんにはとても力になっていただいていますし、アプリ以外でもポスターや店頭オブジェなど実際にお願いしている部分もたくさんあります。フラーさんにお願いして良かったなと感じます。
さまざまな取り組みを今後も展開していく中で、今後もフラーさんへ「これ作ってください、あれ作ってください」と依頼するものが多くなっていくと思います。ぜひ一緒に頑張っていけたら嬉しいです。