アプリはchocoZAPに欠かせない“インフラ” 革新的なジム&宅トレアプリはいかにして生まれたのか App Ape Award 2023 DX賞アプリインタビュー
フラーが手がけるアプリ市場分析サービス「App Ape(アップ・エイプ)」のデータをもとにユーザーに愛されたアプリを選ぶ「App Ape Award 2023」で、「chocoZAP(チョコザップ)ジム&宅トレアプリ」が「DX賞」に選定されました。
店舗数 1333店、会員数112.4万人(2024年2月14日時点)と躍進を遂げる24時間無人運営のコンビニジム「chocoZAP」。この仕組みを支える「chocoZAPジム&宅トレアプリ」の成長の軌跡や取り組みについて、RIZAPグループ株式会社の鈴木隆之上級執行役員に伺いました。
(敬称略、記事:石徹白未亜、編集:日影耕造、写真:島・日影)
chocoZAPジム&宅トレアプリのDX賞選定理由について
「chocoZAP(チョコザップ)ジム&宅トレアプリ」は、「簡単」、「便利」、「楽しい」コンビニジムというコンセプトのもと、デジタルを前提とした革新的なビジネスモデルを構築されており、その中核を成すアプリのアクティブユーザー数はとりわけ高い成長率を記録しています。こうした点から、デジタルを活用したビジネスの代表的な成功事例と考え、「DX賞」に選定しました。
chocoZAPアプリが果たす2つの役割
――DX賞の感想をお聞かせください。
鈴木:RIZAPグループがDXを起点とした新たな事業に取り組もうとする中、私は2021年5月に入社しました。当時はまだDX関連の組織はありませんでしたし、エンジニア、データサイエンティストといった人材もほぼ社内にはいませんでした。まさにゼロから立ち上げたアプリがこうしてDX賞を受賞できたことはなんとも感慨深いものがあります。
そして、chocoZAPの事業自体についてはさまざまなメディアで取り上げていただくことも多いのですが、その中核となるアプリそのものにこうしてスポットライトがあたることは非常に嬉しいですね。
――chocoZAPアプリがchocoZAP事業において果たす役割について教えてください。
鈴木:chocoZAPのアプリには大きく分けて2つの役割があります。
1つは店舗利用におけるインフラとしての役割です。ビジネスモデルを立ち上げるゼロの段階から、店舗利用というリアルのサービスを無人で提供するためにはアプリが必須でインフラとなる想定でした。
chocoZAPは完全無人のジムで、入会もウェブやアプリから行います。ジムの入退館もアプリからのQRコード認証が必要です。店舗の中にあるセルフエステなど一部の設備の予約もアプリ経由です。chocoZAPというサービスを利用するお客様にとって、アプリはまさに欠かせないものなのです。
もう1つは「アプリそのもので価値を提供する」という役割です。例えば、もしジムに通う頻度が1週間のうち3日だとしたら、残りの4日は何のコミュニケーションもできない、chocoZAPの価値を提供できないことになります。それはお客様にとってとてももったいないことだなと。
まさにそこでアプリがサービスの起点として価値を提供する役割を発揮します。
chocoZAPに入会されたお客様には、体組成計とウェアラブル端末をスターターキットとしてお配りしています。アプリと連携させることで、体組成計に乗ったらデータがアプリに反映され、ご自身のライフログが見られる機能を提供してます。こちらはchocoZAPに来られない日でも、毎日使っていただけます。
アプリにはAIを活用した食事記録機能もあります。毎日食べたものを写真で撮っていただいたら、画像から栄養素を把握し、「タンパク質をたくさん取れていますね」「ちょっと脂質が多いですね」といったアドバイスを栄養の見える化とともにお伝えするものです。このようにアプリを通じて24時間365日、価値を提供しているのです。
もちろん、私たちが事業を運営する上で、お客様とのコミュニケーションを円滑に行うための土台としての役割もアプリは担っています。
chocoZAPに一定期間通われていないお客様に対し、ポップアップなどの表示をアプリを通じて行ったり、アプリの利用動向を分析してより良いサービスを考えたりするところまで、chocoZAPをより便利に価値あるものとして利用していただくためのさまざまな施策の土台としてアプリが存在します。
DX組織がない中でDXアプリを開発
――アプリを開発するにあたってどんな苦労や試行錯誤がありましたか?
鈴木:無人店舗での運営を早期にスタートするため、DXの組織が存在せず、デジタルに関連する人材もほぼ社内にはいなかった状態から半年という短期間でアプリを開発してローンチする必要に迫られたことがやはり大変でしたし、苦労もしました。
外部のパートナー企業さんと連携し、スピード重視で開発してローンチまではこぎつけたのですが、chocoZAPという事業はまだまだ産声を上げたばかりで課題が山積みでしたし、急いで作っただけにアプリ自体の改善すべき点が多く、当初はアプリストアの平均評価も2点台とかなり厳しいスタートを切ることになりました。
そこから高速でPDCAを回してアプリのアップデートを進め、リリースから半年でストアの平均評価も4点台にまで上がりました。この時は本当に大変でしたね。
アプリ開発の内製化も同時に進めました。外部のパートナー企業さんにお願いをすることで少ない社内リソースでアプリ開発が可能となる一方で、PDCAのスピードを上げることにどうしても難しさが生じてしまうであろうことが見えていたからです。現在では基本的に100%、RIZAPグループの子会社であるRIZAPテクノロジーズが内製で開発しています。
経営トップの理解があったからこそのスピード感
鈴木:このように思い切った手法を取ることができたのは、RIZAPグループの経営トップの理解があったからこそです。
「まずはスピード重視で開発し、当然出てくるであろう課題はその都度直しながら、PDCAを高速で回していく」ということについて、経営トップとしっかり理解と合意を得られたことが何より大きかったですね。「完璧を求め、そこから事業を立ち上げよう」であれば、正直ここまでのスピード感を出すのは無理だったと思います。
チームメンバーも当時のRIZAPにDXの組織がないことを分かった上で、ゼロから作っていきたいというモチベーションと、自分たちだったらできるというスキルや経験のあるメンバーが揃っていました。いいチームを早いタイミングで作れたことも非常に大きかったです。
――取り組みの形としてはほぼスタートアップですね。
鈴木:まさにそうですね。RIZAPとしてのブランド認知であったり、RIZAPグループとして扱えるリソースの大きさを活かしながらベンチャー的に取り組めたからこそ、これだけのスピードでここまでの規模に成長できた部分はあると思います。そういう意味で本当に恵まれた環境でやりがいもありますし、実際に取り組めることの幅も広いなと実感しています。
ご参考:<社長インタビュー>開始1年で会員数日本一。『chocoZAP』にかける想いとリアル×デジタルの可能性。
リアル店舗なのにアプリ完結プロダクトのように運営できる理由
――お客様との関係において、大切にしていることはありますか?
鈴木:オーソドックスに、お客様の声や様々なデータと常に向き合いながらひたすら改善していくことを大切にしています。特殊なことはしていません。
ただ、他のリアル店舗と決定的に違うのは、全てのお客様にchocoZAPアプリを利用いただいているがゆえに、日々のお客様の利用動向も100%データで把握できているということです。
通常、お客様の声は店舗スタッフを通じて入ってきますが、chocoZAPは無人店舗なので、お客様の声はメール、SNS、アプリのレビューなどのデータとして直接入ってきます。これがより良い取り組みを生み出すための源泉であり、大きな価値となります。
リアル店舗を運営する事業でありながらも、デジタル完結型のプロダクトのようにお客様の声をはじめとした各種データを収集したり、PDCAを回したりすることができるのはchocoZAPの非常に大きな特徴ですね。
――入ってくるデータが膨大だと、何に主眼を置いて分析すべきなのかが迷子になってしまうこともあると思います。どういった部分を重視して見ていますか?
鈴木:chocoZAP事業で重要となるのは、お客様の継続率です。どのくらいの頻度で来ていただくと継続しやすいのか、 chocoZAPにはジム以外にも脱毛など様々なサービスがありますが、何をどう使っていただいた方が継続しやすいのかなどについて、数字を見ながら仮説を立てて取り組んでいます。
通常こういった情報は現場スタッフが集めて、それがさらに本部に集約されるのがリアル店舗の運営における大きな流れです。人間が介在するゆえにこのやり方だと必ず情報の粒度に個人差が生じますし、抜け漏れも発生するものです。
その点、chocoZAPの場合はお客様の利用動向などの各種データが100%集まってそこから施策を考えられるというので、ある意味やりやすくもあり、分析もやりがいもありますね。
アプリを生かしたDXはさらに進化・加速する
――chocoZAPのようなゼロからのDX事業が成長・成功を図る上で、アプリは今後どのような役割を果たしていくでしょうか?
鈴木:アプリができることが増えていってDXの中核的な役割を果たすのは間違いないでしょう。スマホやアプリを生かしたDXはさらに進化・加速していくと見ています。
chocoZAPの現在のアプリを起点にしたビジネスモデルをもし6、7年前ぐらいに展開しようとしたら、かなり大変だったでしょう。入退館の仕組みもですし、AIカメラを使った安全管理にもかなりの投資や時間がかかったでしょう。もしかしたらそもそも無理だったかもしれません。
しかし、この数年でAIを含む技術革新が進み、スマートフォンアプリとリアルのプロダクトの連動が容易になってきたことから、chocoZAPという事業を立ち上げることができました。
今後さらにAIなどの技術が発展することで、リアルや人間の役割を代替できる部分も増えていくと見ています。
DXを推進するために重要なこと
――御社の事業においてAIの代替が効かない「人間でなければできない部分」はどの部分になるのでしょうか。
鈴木:RIZAPはまさに人間でなければできない事業です。パーソナルトレーナーがお客様につきっきりで寄り添い、信頼関係を築き、結果にコミットしていくからです。
RIZAPのパーソナルトレーナーは、今後もお客様に寄り添うことにフォーカスしていくことで、より人間の価値を高めていくことができると思います。
一方、chocoZAPはRIZAPと異なり、人間でなければできないことを基本的にデジタルに置き換えて無人で運営しながらも、RIZAPが培ってきたパーソナルトレーナーに象徴される人間的な魅力を付加していくことが重要だと思っています。
ARやVRの進化で人間がその場にいなくてもコミュニケーションが取りやすくなっている中、これをデジタルを通じて実現することこそ、chocoZAPにおける「人間でなければできない部分」です。
――DXを推進し、事業を成功に導くために重要なことは何でしょうか。
鈴木:一言でいうと、“覚悟”です。
chocoZAPは店舗が無人だからコストを抑え低価格で提供できるという特徴がありますが、私はそこにとどまらず「無人だからむしろ有人より良い品質を実現できる」と考えています。
良くも悪くもサービスの品質というものは人が介在するとばらつきが生じるものですが、デジタルできちんとした仕組みが作れれば、むしろ人が手掛けるよりも安定していいサービスを提供できるのではないかと。
車の自動運転技術は当初は危険だと言われていましたが、何年もやり続けたことで飛躍的に進化しています。
車の自動運転技術のように、chocoZAPも改善を続けることで、より高いレベルの店舗運営が実現できると確信しています。
明るい未来を持ちながら、粘り強くやり続け、現状を塗り替えるような進化を遂げるのだという覚悟を持つことが重要ですし、実際にそうしていきたいです。
社内やお客様からの声を真摯に受け止めながら、変化を恐れずにリスクを取る覚悟ができるかどうかが重要です。
ただ、RIZAPは経営トップの理解もあり、むしろ変化をしていくことが当たり前で「変わっていこう」というカルチャーなので、非常に進めやすいなと感じています。
リアルとデジタルが融合するアプリに
――chocoZAP事業の今後の展開について教えてください。
鈴木:今後もchocoZAPの店舗数を増やしていきます。また、chocoZAPはジムだけでなくセルフエステやセルフ脱毛などのサービスも提供しています。心身の健康や生活の充実に資するサービスが使い放題、というプラットフォームにしていきたいです。
chocoZAPのアプリについては、現時点ではchocoZAPの店舗を使うためのインフラとしての価値が大きいですが、アプリを運営している立場としては、もっとアプリがお客様の健康をサポートできるようにしていきたいですし、アプリだけでも楽しめる機能や体験を増やし、リアルとデジタルが融合するDXを体現していきたいです。
――アプリの価値を高めるためにどのような取り組みを想定されていますか?
鈴木:ジムに行ける時間は限られていますから、やはりそれ以外の時間にアプリが価値を提供できるかが重要です。現在も一部で取り組みを始めていますが、ゲーミフィケーションを取り入れた仕組みなどもっとアプリ単体で楽しんでいただけるような仕掛けを入れていきたいですね。
お客様のUGCやコミュニティの盛り上がりもとても重視しています。実は、chocoZAPのコミュニティ「コミュちょこ」はかなりアクティブな状態です。
無人で運営しているので、お客様同士がコミュニケーションを取りながら、店舗やサービスの使い方についてやり取りいただいたり、「今日もchocoZAPに行けて頑張った」とお互いに称賛しあったりといったつながりがさらに強くなるようにコミュニティを支えていきたいです。
RIZAPはパーソナルトレーナーが寄り添いますが、chocoZAPでは会員の皆さんで繋がり合ってみんなでモチベートしたり、支え合ったりしていく世界観ができたらいいなと思っています。
ーージム運営に止まらない、魅力あふれる取り組みを手がけているのですね。
鈴木:はい!RIZAPグループにはそこにチャレンジできる環境もカルチャーも整っていると自負してます。とてもやりがいがあります。
実はRIZAPグループではいま、採用に非常に力を入れています。ここまでお話ししたようにアプリの内製化や事業拡大などこれからやりたいことに対して、まだまだ人員が足りていないというのが実情です。
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