フラーデザインが考える表現力の鍛え方
『フラーデザイン』は、デジタル領域に特化したデザイン組織です。
これまでもフラーのデジタルノートでは、フラーデザインが考える『デジタル時代を生き抜く、統合するデザイナー』についてやフラーデザインが取り組む「成長のための仕組み」や大切にしている4つの力について、考えを綴ってきました。
今回は、フラーデザインで大切にしている4つの力の中でも表現する力の鍛え方について、深堀りながらご紹介します。
書き手はフラーCDOの櫻井です。
はじめに
フラーCDOの櫻井(@sacurai)です。
2022年にフラーデザインを立ち上げてから、デザイン組織をより良くするために、様々な取り組みをおこなっています。
中でも、フラーデザインではデジタル時代を生き抜くデザイナーであるために、組織全体で“理解する力・設計する力・表現する力・伝える力”、この4つの力を大事にしています。詳しくは下記の記事でお伝えしました。
今回は4つの力の中でも“表現する力”に焦点を当て、その鍛え方を書いていきます。
4月からデザイナーとしてキャリアを歩み始めた新卒社員のみなさんやこれからデザイナーとしての活躍を志す方々のヒントになれたらうれしいです。
誰だって、最初は素人
現在フラーのCDOとしてフラーデザインを率いている僕ですが、デザインの世界に入る直前である10年以上前に初めて創った卒業文集はデザインの基礎が何もできてないものでした。
それがこちらです。
お見せするのも恥ずかしいですが、今はデザイナーとして仕事をしている一方でこんな時期もあったのだと示すことで伝わるものがあると思い、載せています。
上記はデザインの世界に入ったばかりのころにデザインしたもの。どうしてピンクなのか、そもそも説明が不十分、など今の自分なら突っ込みたいポイントがたくさんあります。
そして上記がデザインを学んでから、今に至るまでに創ったものたちです。
デザインを学ぶ前とはアウトプットはもちろん、その考え方や表現の方法まで大きく変化していることが少しでも感じていただけるのではないでしょうか。
卒業文集からここまで10年ほど。その間にどのように表現力を鍛えたか、伝えていきたいと思います。
ただ、これは僕の経験に基づく独自の知見なので人によって相性はあります。他の方法がフィットする人ももちろんいるとは思いますが、これから表現力を鍛えたい人のヒントになったらうれしいです。
表現力を構成する3つの要素
端的にお伝えすると、現時点で僕の表現力は以下の三要素で構成されています。
見る量
盗む力
描く量
それぞれについて、一つひとつ説明していきます。
見る量
まず大事なことが“見る量”です。
良いデザインとされているものをどれだけ多く見るかが重要です。
僕自身、卒業文集を作ったころの初期段階では「そもそも何が美しいのか?」と測る物差しもない状態で「何が美しいのか」、「どんなデザインが優れているのか」さえも分かっていませんでした。その状態では、美しくないとされるデザインをも盗んでしまうことになり、次の“盗む力”にも繋がっていきません。
大事なのはまず物差しを持つことと、良いデザインの物をちゃんと見極めること。「見る量」と言えども、とりあえずたくさん見ればいいかというと、そうではありません。まずは見る場所を見極めることが大事です。
デザイナーであれば、普段からまず参考になりそうなデザインやコンテンツなどを様々なメディアでチェックしていると思います。PinterestやDribbble、Instagram、参考サイト、自分が大好きなサービスなどです。
見る場所は人それぞれでもありますが、僕が「見る場所」を見極めるために大事にしていることは大きく3つです。
見る場所の見極め方①:精査された場所で見る
一つ目は精査された場所で見ること。
例えば「船 イラスト」というワードで検索したときにPinterestで出てくる画像群と、Googleの画像検索で出てくる結果はそれぞれ違ってきます。
Pinterestは、ユーザーが良いと思ったものをピンボードのように見られるサービスなので、検索すると人に気に入ってもらえているデザインやプロダクトを見ることができます。
他にも、グッドデザイン賞を受賞したプロダクトや文化庁メディア芸術祭で受賞したアニメ、有名なイラストレーターのインスタグラム、ギャラリーなど、良いとされるデザインに触れられる自分なりのデザインプールのようなものを作っておくことがとても大事になります。
このデザインプールは、おそらく個々人によって異なるはずです。しかし、他の人がどんなプールを持っているのかを聞く機会はあまりないように思えます。近くのデザイナーに「どんなデザインプールを持っているのか」や「検索の仕方はどうしているのか」など聞くと、自分のプールをさらに広げる機会になります。リアルなアートギャラリーなどを見に行ったり、何か検索するついでに「デザイン性」と加えて検索することをしてもいいかもしれません。
そのようにして、精査された自分のデザインプールを持つことはもちろん、精査されたプールを広げたり更新したりすることもとても大切です。
見る場所の見極め方②:趣味趣向を取り除く
二つ目は自分の趣味趣向を取り除くこと。
わかっていても難しいところです。デザインプールを集める時にも、思いのほか自分の好きなものを見てしまいがちなので「あ、これかっこいい」、「あ、これ可愛い」と思っている時点で、自分の好きなものに偏っていることを忘れずに自覚しておくことが大切です。
なぜなら、30代男性の僕の視点だけでは、例えば自分の親世代や女子高生が好きなものを拾えないからです。大事なのは、それを意識した上でデザインプールを作ること。僕の場合は、普段は読まない女性誌を見て、女性誌を読む人たちはこういう視点で見ているんだとインプットするようにしているし、それならばこういうプールを見てみようと参考にしています。
いいデザイン、好きなデザインは自分が好きなデザインなので、なるべく「このデザインはこういう人が好きそうだな」という感覚でも見ることがとても大事です。
見る場所の見極め方③:デジタル以外も見ること
三つ目は、見る場所をデジタルに限定しないこと。これは、フラーデザインのデザインポリシーにも書いてあることです。
インターネット上で使えるPinterestやBehance、Dribbbleなども、とても素晴らしいサービスです。当たり前に使ってほしいものではあるのですが、一方でアニメやゲーム、電車広告、美術館などの、生活でリアルに触れるものにもデジタルで盗める要素はたくさんあります。
例えばポスターの構成を見てデジタルの画面に落とし込むときに、要素の美しさを参考にする。……というようにデジタル以外のところにも目を向けていくことで、次に説明する“盗む力”も一層鍛えられていきます。
ここまでお伝えした3つのポイント、「精査された場所で見る」「趣味趣向を取り除く」「デジタル以外も見ること」を意識しながら、僕は質の高い見る量を増やしています。
盗む力
続いてお伝えするのが、盗む力。
先ほどの大前提の上で見てきた量や様々なインプットに対して、その「良いデザインとされているものの特徴や“らしさ”をどれだけ抽出できるのか」が盗む力です。
突然ですが、ここで質問です。賞状らしさとは、どこにあるのでしょうか。
縦書き、明朝体、文章の構成、最後の締めに代表の名前……
他にもあるとは思いますが、10年前の僕だったら“明朝体”と“ゴールドの枠”くらいしか思いつかなかったと思います。しかし、現在はもっと細分化して、“正式なものと思わせるための明朝体”、“豪華さを表わす光沢のあるゴールド”、“ある造形をモチーフにすることで意味を感じさせる枠”、“枠の造形のきめ細やかさから来る洗練さ”……と考えていきます。
この「らしさ」というものを盗む時に持つ視点は人それぞれだと思います。「盗み方」にも個性があるので、「賞状らしさとは?」の回答は人それぞれ異なるものです。だけど、10年前の僕のように“明朝体・ゴールド・枠”の粒度ではなく、もう少し細かく見ていくと盗める部分はたくさん見つけられます。
ここからは盗む力を鍛えるコツをお伝えします。
盗み方のコツ①:複合的に、コンテキストまで盗む
持論になりますが、見た目だけではなく複合的に、かつコンテキストまで盗むことが盗む力をつけるコツです。
賞状の例ひとつを取ってみても、単純に”ゴールド”や“枠”だけではなくて、例えば枠のモチーフにされている葉、さり気ないワンポイントの鳥……といったように多くの場合デザインはいくつかの要素が組み合わさっています。そのため、デザインの「ある一つのものを抽出する」のではなく、複合的に捉えることが大切なポイントのひとつです。
そしてコンテキストまで盗むこと。これは賞状にどうしてゴールドが使われているのか、豪華さを表すために使っているんじゃないか、正式なものと思わせるために使ってるんじゃないか……とデザインの文脈まで読み解いていくという意味です。
このようにいくつかの要素を見つけるようにしたり、デザインの文脈まで考えたりすることで盗む力がぐっと高まり、自分の中の引き出しが増えて様々なアプローチでデザインできるようになると考えています。
賞状でいうと“ゴールド”や“枠”も分解の一つですが、そこからさらにどれだけ細かく分解して、複合的な意味やコンテキストまで分解・整理してデザインを自分の中の引き出しに入れられるのか、が重要なポイントになっていきます。
例えば、“ある造形をモチーフにすることで意味を感じさせる枠”、“様々な展開を感じさせる枠”を盗めたとしたら、“造形のモチーフ”を自分のコンセプトに合わせていくことで独自性がある枠を創ることができるようになります。
他にも、「枠のきめ細やかさをデフォルメすることで親しみを持たせてみよう」など、要素を変えることで子ども向けの賞状を作るアプローチができるようになるなど、「らしさ」を保ちながら違う賞状をデザインするなどの展開ができるようになります。
ちなみに僕は盗む力を鍛えるために、よく世の中にあるロゴマークを分解して考えます。ロゴについては検索すると答えが見つかることも多いので、分解してひとつひとつの要素が何をもたらしているか、ロゴに表現されている意味やコンテキストを考えて答え合わせをして、盗む力を鍛えています。
以上が、盗む力の話でした。
描く量
最後は描く量です。表現する量とも言えます。
盗んだ要素をいかにどれだけ表現していくか。最後に身も蓋もない投げ出しているような結論に思えるかもしれませんが、ここからは数の領域です。僕の場合は特にそう思っています。
例えば、僕は普段日常的に趣味でイラストを描くことはほとんどありません。それでもデザインのため、表現力を鍛えるために描くことを続けています。それにイラストひとつを例にしても、表現の方法はイラストレーション、3Dグラフィック、映像写真アニメーション……と多種多様で、どの場面でどの手法を選ぶかも重要になってきます。あらゆる表現に触れること、自分で表現していくことは、デザイナーとして必要なことだと思っているので意識をして取り組んでいます。
しかし、中には純粋に絵を描くことが好きな人もいます。そういう人は努力しようとせずとも描く量が多いです。つまり、好きでたくさん絵を描いている人と僕のように「描かねば」と思って絵を描いている人では、モチベーションが違います。だからこそ、本当に表現力を向上させたいと思ってるならば、意識して表現をする量を増やすことが大事になってきます。
といっても、やっぱり手を継続的に動かし続けるって難しい。そう感じる人もいると思います。昔の自分はそうでした。そんな僕が意識してきたことを最後に2つお伝えしたいと思います。
描く量のコツ①:描くシチュエーションを創る
描く量を増やすモチベーションをどう保つかも、大切なことです。
言ってしまえば当たり前のことですが、描くといってもまずは「描くキッカケ」を自ら創り出していくことが最初のステップです。
例えば、イラストを普段描かない僕は、自分のためには描けない一方で、クライアントやユーザーなど、誰かが喜んでくれるのを感じることがモチベーションになっています。「誰かのために」のほうがモチベーションが上がるため、そのシチュエーションを自分で創っています。
モチベーションはみんな様々です。LINEスタンプでお小遣い稼ぎのためのキャラクターデザイン、Pixivで評価を得るためにイラストを描く、広告のコンペに出して賞を取る、クラウドソーシングでロゴを創ってみる、などなど。
正直にお伝えすると、キッカケやシチュエーションを創ったとしても、特に最初は苦労するし、筆やペンタブを投げ出したいぐらい僕は本当にしんどかったです笑。それでも書き続けてなんとか形にしていった先で、ユーザーさんや見てくれた人たちが喜んでくれて「いいね」と言ってもらえた時に報われた気持ちになって「やっぱりデザイン面白いな」とまた努力したくなっちゃっている自分がいるのが、僕の場合です。
描く量のコツ②:楽しさを見つける
モチベーションは人それぞれですが、共通して大事なのは「楽しさを見出すこと」。楽しさというのも人によって違うと思いますが、楽しさがなかったら続かないと思います。
もし、楽しさを見出せていないのだとしたら、自分にとっての楽しさのスポットがどこなんだろうと探すところから始めてみてはいかがでしょうか。努力した先にある喜びが楽しさなのか、単純に純粋に描くことが楽しさなのか、はたまた別のことなのか、それは人によってそれぞれです。こればかりは教えることはできませんが、しっかり自分と向き合って楽しいと思うポイントを見つけてもらえたらと思っています。
以上が楽しさと重ねた数の結晶「描く量」の話でした。
さいごに
ここに書いたことは僕のこれまでの経験から考えた方法なので、人によってやり方はそれぞれです。
まとめると、僕の場合は以下の3点を意識して表現力を鍛えています。
精査された場所で良いとされるデザインをたくさん見ること。
複合的にコンテキストまで良いデザインを盗むこと。
自分が描いたり表現したりする量を増やしていくこと。
すぐには成果が見えないときもありますが、コツコツと積み上げていくことで表現力は鍛えられていくと感じています。
ということで、今回はデザインにおける「表現力の鍛え方」についてお伝えしました。この内容が少しでも参考になっていたらうれしいです!
お知らせ
櫻井さん、ありがとうございました!
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