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「友達経営」は現在進行系で続く物語。初の著書に込めたフラー会長・渋谷の思い

フラーで代表取締役会長を務める渋谷修太がこのほど、初の書籍「友達経営 大好きな仲間と会社を創った」を徳間書店より出版しました。

渋谷の生い立ちや高専時代の仲間と共に立ち上げたフラーの創業秘話、友達と経営を手がける醍醐味、アプリ・デジタルへと向き合ってきた渋谷のユメや地元・新潟への思いなどを綴りました。

発売前にもかかわらずAmazonのビジネス・経済書ランキングで1位を獲得するなど大きな反響を呼んだ「友達経営」は、どのようにして生まれたのでしょうか。また、どんな思いで執筆したのでしょうか。柏の葉本社で渋谷に聞いてみました。(記事:日影耕造、写真:島)

読者の声が直接届いた

ーー本を出版してから何か変わったことはありましたか?

渋谷:やはり「友達経営を読んで感動しました」「泣きました」といった声を直接読者からいただくようになったのがものすごく大きいですね。

SNSでもいろいろな方から連絡をいただくようになりました。「寮の風呂の椅子を変えたエピソードが一番面白かった」という方がいて、読み手によって本当に感じ方が様々だなといい意味で実感しました。

ーー渋谷さん自身の変化はいかがですか?

渋谷:年末年始に集中して執筆や編集作業に取り組んだので、出版した直後は「いや〜疲れたな〜」という思いはありました(笑)。

僕はすごく本が好きで、自分でも何か書いてみたいというユメがあって今回実現した形ですが、これは5年に1回ぐらいでいいかなって思うくらい、本が完成した直後は疲れていましたね(笑)

本を作るという作業自体はとても大変でしたが、いろいろな人との出会いを振り返ってまとめられたことはすごく良かったなと思っています。

本当は紹介したい人がもっとたくさんいたのですが、本という限られたスペースの中でなかなか載せ切れず絞り込むのがすごく大変でしたし、悩みました。でも、最終的にはうまくまとまったのかなと思います。

あと、ものすごく自分自身が変わったなと思うのは「サイン」が書けるようになったことですね。本をお買い上げいただいた方や本を取り扱ってくださっている書店さんのために人生で初めてサインを考えて練習して、何百回もたくさん書いていたらめちゃめちゃうまくなりました(笑)

ーークラウドファンディングもしましたね。

渋谷:はい!今回の出版に際しては、クラウドファンディングで支援者を募り、トップカルチャーの清水社長に徳間書店をご紹介いただいて企画を持ち込んだ形です。おかげさまでクラファンでは380万円以上の支援金が集まり、学校や図書館といった教育現場に本を配ることができました

クラウドファンディングの際に作成したアイキャッチ(渋谷のCAMPFIREより

こうした前評判が奏功したのか、「友達経営」はAmazonで発売前にもかかわらず、ビジネス・経済書ランキングで1位を獲得しました。Amazonでものすごく売れているのは出版社にとっても想定外だったらしく、今思えばですが、もっと在庫を置いておけばよかったなと思っています(笑)。

こうして出来上がった本が新潟県内の書店で大きなPOPなどのディスプレイを展開していただいたり、平積みにしていただいたりと地元で扱っていただいているのが何よりうれしいですね。

ーー紙の本という、たしかな手触りがあるものっていいですよね。

渋谷:そうなんです。モノとして残るし、この書籍のサイズ感がちょうどいいですよね。

モノとしての紙や装丁など本自体のデザインや品質にもこだわりました。デザイン案を3パターンほど作って、若手の後輩起業家たちにヒアリングして決めました。

デザインは新潟県新発田市出身の鈴木さんというデザイナーにお願いしました。ディレクションは長岡に最近移住した宮田さんです。オール新潟で作り上げました

カバー裏の本体のイラストの絵は、実は当初、表表紙のカバーにしようと思っていたんです。でも、本の一番最後の「おわりに」で星空の下でみたいな話が出てくるところに繋がってるという”答え合わせ”があります(笑)。

「友達経営」は現在進行系で続く物語

ーー他の本にはない特筆すべき点は何かありますか?

渋谷:「友達経営」の特筆すべき点は、”あとがき”が長いことです。正直、めっちゃ長いです(笑)。

タイトルからも分かるように、この本は登場人物が主役で、友達を含むいろいろな人とのつながりによって今の自分やフラーがあることを綴っています。

ですので、通常は本に直接関わった人のことしか書かないあとがきの謝辞に、本文には全然登場しない人の名前が連なり、延々と終わらないあとがきになりました(笑)。

でも、「友達経営」にはそれだけいろんな人の人生のストーリーが関わっているんですね。だからこそ、謝辞に人が連なっていても、読めるんじゃないかと思っています。

ビジネス書というジャンルではあるものの、「友達経営」はノウハウ本ではなくて、現在進行系で続く物語(ストーリー)なのです。

ーー特に力を込めて書いたのはどの部分でしたか?

渋谷:もちろん全部頑張ったのですが、特に思いが強かったのは第3章の生い立ちの部分を振り返りながら書いた時でした。

第1章のフラーの創業ストーリーはいろいろなところで話す機会がありました。第2章は今回の「友達経営」のビジネス書としての根幹部分で、読んだ方々が再現性をもって起業したり、友達経営を実践したりするのを後押しする内容です。

一方、第3章は初出しのものが多かったです。読んだ方々は「そんなことがあったんだ!」という思いの人が多かったのではないかと思います。

10周年、新潟、コロナ…いろいろなきっかけが重なって生まれた

ーーそもそも「友達経営」という本を作るきっかけは何だったのですか?

渋谷:まず、「なにか本を書きたいな」という漠然とした思いは以前から抱いていました。その時は「高専生が会社を創るまで」といったタイトルで、高専生をターゲットに書こうかなとなんとなく思っていました。

ただ、なんとなくの思いゆえにあまり筆が進まないなと思っていた矢先、新潟で知り合った編集者の橋本さんと出会ったり、書籍販売を手掛けるトップカルチャーさんと親しくさせていただくようになり、本を作るということの解像度が一気に高まりました。それが実際に書籍を作ってみようという具体的な動きになったのが、2021年6月頃のことでした。

特に編集者の橋本さんと出会ったことはものすごく大きいです。

共通の知り合いから「新潟に移住する編集者がいる」とFacebookを通じてたまたま紹介されたのが、橋本さんでした。

そこから書籍を出版しようと思い、出版社と最初にミーティングをしたのが2021年9月頃でした。そこから半年で一気に作りました。

書籍を作ることになった複合的な要因の一つとして、やはりフラーが創業10周年という節目を迎えたことも大きいですね。書籍のコンテンツが揃っているなっていう感じがしました。

新潟に戻ってからの自身の取り組みも大きく影響しています。県内で講演したり、若手起業家の育成をしたりする中で、「誰に何を伝えたいか」が明確になってきたんです。

本でも書いていますが、自分自身の経験を振り返ると、友達との出会いや本とのめぐり合わせが会社を作るという決断に至るまでの大きな要素になっています。

だから、逆に僕が「友達経営」をこのタイミングで出すことで、悩んでいる人の最後の背中を押して起業家を増やしたいなと考えるようになりました。

そう考えていくと、高専生だけでなく広い意味での学生、地方に根ざす人、地方に移住をしたい人、起業に興味がある人といった具合に想定する読者が広がっていきました。

時事的なタイミングとしては、新型コロナウイルスの影響が一番大きい気がします。

コロナをきっかけとして、どこで生きるのか・誰と生きるのか・どんな働き方をするのかなどといった人生を見つめ直すタイミングが訪れた人が多いと思うんですね。

僕自身もそんな一人ですし。結果として「友達経営」は経営書と呼ばれるジャンルの本ではあるけれど、すごいタイミング的に時事を反映したタイムリーな本にもなっている感じがします。

ーーなんとも不思議な感覚ですね。

渋谷:そうですね。僕の人生で大きな影響を受けているライフネット生命の岩瀬さんと2カ月ほど前にランチをした時「創業10年でいよいよ時代が追いついてきたね」といったお話をしました。

好きな場所で好きな人や友達と生きることを10年前からフラーで実践していて、時代がそこに追いついてきた感じがします。

だから、10年前に「友達経営」を出版しても、そんなに世の中の人々に刺さらないだろうなと。そんな気がします。

ーー書籍出版にあたってクラウドファンディングで支援を募ったのはなぜですか?

渋谷:僕自身が会社を作ろうって思ったきっかけが、高専時代に読んだ岩瀬大輔さんの本「ハーバードMBA留学記」でした。

岩瀬さんが書いた本がもたらした出会いは、僕の人生を大きく変えました。今度は逆に自分自身が若い学生に向けて人生を変えるきっかけになる本が出せたらという思いがありました。

一方、自分で働き始めれば躊躇せずに買える範囲の金額ではあると思いますが、1冊2000円近い本を自分で買うのは、学生にとってハードルは決して低くないものだと思います。

だから、学生が「買わなくても読める」という状態をつくることが必要じゃないかと思って、学校に「友達経営」を配ることを目的にクラウドファンディングをしました。

新潟県庁と話して支援をもとに作った「友達経営」の寄贈式も開きましたし、新潟日報に広告を掲載して学生の親世代に届けるための取り組みもしました。

ーーフラーに関係する人々によるコラムもありますね。

渋谷:そうなんです。本当は当初、10人ぐらいの方々にコラムをお願いするという案もありましたが、いよいよまとまらなくて本が終わらなくなるので今の人数に落ち着きました。

ストーリーや書きたいことを全部できるだけ入れたいという思いと実際のページ数とのバランスは本当に難しいですね。すごく苦労しました。

5年後、10年後に向けて本を書いた

ーー執筆にあたって参考にした書籍はありますか?

渋谷:スノーピークの山井さんの著書「スノーピーク「好きなことだけ! 」を仕事にする経営」は大いに参考にさせていただきました。あとは、気付いてる方も多いかも知れませんが、本のタイトルを決める際、ディー・エヌ・エーの南場さんの著書「不格好経営」にすごくインスパイアされました。

ーー「友達経営」というタイトルになったのはなぜですか?

渋谷:これは編集者の橋本さんと地方での起業や高専などテーマを考案するディスカッションする中で出てきましたね。

「会社に中学校時代の友達がいたり高専の仲間がいたりと、いつまでも仲間と一緒にいたい思いが軸になって会社を構成しているところこそが一番ユニークなのではないか」という話になったのがきっかけでした。

本当に高専とか地方とかなんかざっくり考えていた中での「友達経営」という言葉でしたが、すごくしっくりきて、これがいいねみたいな形になりました。

ーーフラーにとっての「友達経営」を出版する意義は何でしょうか?

渋谷:フラーはアプリを軸とするデジタル・ITの会社です。したがって、これまでメンバーによる新聞や雑誌への寄稿などを除き、フラーに関する外部への発信はほとんどがインターネット上のものでした。

一方、紙媒体である本であれば、本をお配りする学校の学生さんやその少し上の親世代はもちろんのこと、これまでフラーと情報の接点がまったくなかった方々に手にとって読んでもらうことで、フラーのことを知ってもらえるきっかけや可能性の幅が飛躍的に広がります。

少し別の視点で見ると、今出ているフラーに関する情報はコーポレートサイトやニュースリリース、note、SNS、新聞・雑誌などで媒体が分かれているゆえに断片的になる部分がどうしてもあります。

フラーはヒトや事業についてユニークな視点で積極的に発信しているものの、根幹はBtoBビジネスということで「フラーの名前は知っている。でも、どんな会社で何をやっているのかはわからない」という方が多いと思うんです。

新潟やアプリなどそれぞれの要素として各媒体で触れて知られていたものが1冊にまとまることで、アプリ、地方、高専といった個々のキーワードがつながり、フラーのことをより深く知ってもらえるようになることに意味がすごくあると思います。

こうして手にとってもらえるフラーの本があることで、5年後、10年後にこの本を読んでフラーを知って「インターンや就職をフラーに決めました」という方が出てきたら、本当に嬉しいですね。

本づくりは”絞ること”

ーー書籍を作る上で、意識すべき重要なポイントは何だと感じましたか?

渋谷:やっぱり、何と言っても意識すべきは”絞ること”ですね。限られたページ数の中で伝えたいことを読者に伝えるには、思い切って削って絞り込む勇気が必要です。

実際、高専時代の卒業研究の話はとても面白かったのですが、「友達経営」というテーマには少しそぐわないため、今回の本からは外しました。でも、本編から外れたエピソードでもその友達の話だけはできるだけ入れようとあがいて、あとがきに3つくらいトピックを入れてたりしました。そういうこともあって、あとがきがものすごく長くなっています(笑)。

あとは、いろいろな形式で読むことが重要ですね。

PCなどのドキュメントで見る文章と、紙に印刷された文章は全然違いますし、ましてや横書きから本向けに縦書きになるとさらに変わります。

さまざまな形式で読むことで細かな表現や全体のトーンなどに気づいて改善できる可能性が高まると思います。

異なる立場や視点をもつ人に読んでもらうこともものすごく重要です。

今回、新卒で入社前にアルバイトをしていた横浜国立大学出身の殖栗くんに一度原稿を読んでもらったのですが、スタートアップやIT業界で働く僕たちが日常的に使っている用語について、「用語の意味がわからない」といくつも指摘してもらいました。

今回の本は特にITやアプリ、スタートアップのことをまだ知らない学生に向けた本です。

殖栗くんに学生という立場で読んでもらったことで、専門用語を注釈なしでそのまま使っていたことに気づき、分かりやすい言葉を使ったり注釈を入れるなど大きく本の品質を改善できました。本当に殖栗くんのファインプレーだったなと思います。

人生を変えるきっかけにしてもらえたら嬉しい

ーー「友達経営」は読者にどんなふうに活用してもらいたいですか。

渋谷:活用方法や捉え方は読んでくださった人それぞれかと思いますが、個人的には、人生にいろんな選択肢がある中で、「友達経営」を読んだことで何かアクションを生み出したり、ちょっとでも人生が変わったりすることが起きたら嬉しいです。

実際、この本を読んで「久々に友達に連絡しました」とか「自分も友達と会社をやろうと思いました」という感想を寄せてくださる方がたくさんいて、本を書いてすごく良かったなと感じています。

最近特に感動したのが、「起業しようかどうかものすごく悩んでいたのですが、『友達経営』を読んで起業を諦める決断ができました」という読者からの感謝のメッセージでした。

人生で何をすべきか悩む中で、「これはやらない」という意思決定ができたことがすごいですし、人生が変わるアクションという意味で、誰かの意思決定に自分の本が役立っているんだなと感じました。

「友達経営」を自分と照らし合わせつつ、人生を変えるきっかけにしてもらえたら嬉しいです。

あとは何より、この本よりもこれからの自分の人生をより面白くしていきたいです。

今までもすごく楽しかったけれど、今後の人生はその過去に負けていられないなという思いがあります。今がベストだと安住せず、これからも面白いことをして生きていきたいですね(笑)。


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