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共創スタジオ副代表が語る、「ほんとうにアプリを伸ばすための目標設計」とは?

フラー『共創スタジオ』チームでは、プロダクトをリリースして終わりではなく、その先のグロースにコミットできてこそと考え、日々の開発を行っています。

そしてそのためには、適切な目標設計が不可欠です。

そこで今回は共創スタジオ副代表・林浩之に、ほんとうにアプリを伸ばしたいならしなければいけない目標設計はどんなことなのか、詳しく話を聞きました。

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林浩之(はやし・ひろゆき)
プロフィール:
1991年1月名古屋生まれ。同志社大学経済学部に在学中に株式会社REVENTIVEを創立し、ベンチャー企業の経営に約7年間携わる。株主である株式会社ディー・エヌ・エー、株式会社ミクシィと共にコミュニケーションアプリの開発を行い、事業売却後に株式会社ドワンゴに入社。月額ファンコミュニティサービスを2年間運営した後、2018年8月フラー株式会社に入社。アプリディレクター統括を経て、『共創スタジオ』副代表に就任。

━━目標設計の話をするなら、やはりKPIという言葉が出てくると思います。KPIについて、アプリ制作界隈における現状をどのように考えていますか?

KPIという言葉は人によって定義が大きく異なり、個人的にはしっくりこない部分もあるので、私自身は、普段はあまり使いません。

ただ、目標設定の話をするなら、やはりKPIという言葉を使うとわかりやすいですよね。KPIはもちろん、昔から使われてる言葉ではあります。ここ一年二年の流行り言葉ではないです。

しかし、2010年台前半は、今とは定義が違いました。そのころは、『インストール数』や『売上』といった、粒度の大きな数値を基本的なKPIに置いている会社さんが多かった。

なにか数値を追いかけるという文化が出てきた時に、いちばんチェックしやすいのがその二つだったからです。

それが年々変わってきて、より本質へ迫るようになってきました。たとえば、『平均課金額』や『ユーザー数』などの、より細かい構成要素で見るべきだよねという話に。
ほかには、『アプリの起動回数』や『滞在時間』などなどですね。

それから三年くらい経った後には、さらに視点が細かくなってきて、たとえば起動回数だったら、ユーザー全体ではなく一人あたりで見るようになりました。滞在時間や課金額についてもそうです。『一人あたりの滞在時間』『一人あたりの課金額』で見る。

こうやってとにかく年々、もっともっとと粒度が細かくして、データに混じる『ノイズと言える今は要らない情報』をなるべく排除するようになったんです。

ノイズを排除し、データの純度が上がれば、課題の本質に近づけます。そしてそうすれば、改善の方法をより正確に特定することができます。

たとえば「売上を改善しよう」と思うといろいろな方法がありえてしまうけど、「インストール後1日のユーザーの離脱率を改善しよう」という話なら、打つべき施策はかなりはっきり見えてきます。
ざっくりとした全体じゃなく、患部一つ一つを治していこうという文化に変わってきたんです。計測対象が、より本質に寄ってきたとも言えるでしょう。

このように、近年においてKPIは、インストール数や売上という大きなくくりではなく、それを構成している要素一つ一つを指すようになってきました。

━━どんなKPIをどう置くかという、KPIの設計についてはどのような考えをお持ちですか?

例として、Twitterで説明しますね。

Twitterは最初、何をするのかよくわからないツールなんですよ。特にTwitterがサービスを開始した当初なんて、周りの人も使い方を知らないから、「こんなもんだ」という情報もない。

みんなが言わば、習熟度0のユーザーです。習熟度は言葉の意味そのまま、ユーザーがサービスにどれくらい習熟しているかを示します。成長度合いと言ってもいいですね。

で、まずは有名人や企業アカウントをフォローさせられます。すると、フォローをしたことで、0だったユーザーの習熟度が上がって1になる。
続いてタイムラインに行くと、フォローした相手の投稿が流れているのがわかって、それを見ることで仕組みへの理解が深まり、ユーザーの習熟度は2くらいになります。
そこから、自分でフォローしたい有名人や企業アカウントを探しに行くようになって、また習熟度は1つ2つ上がる。

このように、一つ一つ「体験」していくことによって、ユーザーの習熟度は上がっていく。

ところで、習熟度の中には、特に重要な段階があります。その習熟度に達するとユーザーが進化する、みたいなところが。たとえば、Twitterで言えばそれは、友達をフォローしたときです。

このタイミングでTwitterは、『知らない人の投稿を見る場所』から『友達の毎日を覗き込める場所』に変容します。ユーザー目線で言えば、Twitterをそういう場所として使えるように進化した、ということになりますね。
その結果、アプリの価値は飛躍的に上がるので、こういう習熟度に到達すると、ユーザーの離脱率は一気に下がります。

同じように、リプライして"初めて"返事をもらえたときや、自分の投稿に"初めて"リプライが付いたときなんかも、重要な習熟度アップのタイミングです。
体験として、「これはこういう喜びを得られるサービスなんだ!」とわかる瞬間だからでしょうね。
この習熟度に到達すると、またTwitterはそれまでとは違う場所に変わります。そして、やはりまた離脱率が大きく下がる。

Twitterには、というかサービスやアプリには、こういったユーザーの離脱率に大きく影響を与える特別な習熟度が、『チェックポイント』としていくつか存在しています。

KPIとは、どれくらいのユーザーがどのチェックポイントまで到達しているのかを測る指標です。
そしてKPIの設計とは、本質的には、チェックポイントそのものをどう定義するかということ。

どうしたらユーザーにチェックポイントをくぐってもらえるのかを考え、それを叶えるために、KPIを設計し計測する。そして必要な施策を打っていく。そうしていけば、ちゃんとユーザーは成長して、かならずサービスは伸びると私は考えています。

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Twitterであれば、もし「一回でも友達から返事をもらった人は辞めにくくなる」ということが数字で実証されていたとしたら、その体験をユーザーが離脱してしまう前にできるだけ早く与えてあげる、とか。
こういうことを考えていけば、プロダクトはかならず伸びます。

最近は、これってサービスやアプリにだけに限った話ではないかもな、なんて思うようにもなりました。
たとえば、喫茶店でもそうなんですよ。来てくれたお客さんが、毎日通ってくれる常連さん(習熟度の高いユーザー)になるかどうかまで、いくつかのチェックポイントがある。
ビジネスでも恋愛でもそうかもしれませんね。

ただ、アプリはこの「ユーザーの習熟度」と「チェックポイント」という考え方と、特に親和性が良いようには感じます。

━━実際にKPIを設計するとき、気をつけるべきなのはどんなことだと考えていますか?

まだ一回もアプリを使ったことのない人、ある程度使い方を知っている人、いろいろ活用してきた人などの、ユーザーの習熟度帯ごとに、KPIを個別で定義することです。

まず念頭に置かなければならないのは、「ユーザーの習熟度を上げたい、そのためになにか施策を打ちたい」となったとき、ユーザーの習熟度帯ごとに方法を変える必要があること。

習熟度帯ごとに、なにが有効かは違ってきます。

たとえば、ゲームのログインボーナス。あれは、習熟度0付近のユーザーへ目に見えて効きます。アイテムやゲーム内所持金の少ない初心者ユーザーには、ありがたいものだからです。
しかし一方で、ヘビーユーザーにとっては意味がないことも多かったりします。「そんな程度のアイテム、今更もらってもしょうがないよ」って。
ログインボーナス画面が出るせいでホーム画面に行くまでのタップ数が増えるので、なんなら邪魔に思うくらいの人もいたり。

だから大切なのは、ログインボーナスの機能が有効なのかどうか知りたかったら、初心者ユーザーのために設計したKPIで判断しなければならない、ということです。

もしヘビーユーザーが多いゲームで、ユーザー全体から数値を取ってKPIを計測したら、ログインボーナスはあまり効果のない施策と判断されてしまう可能性がある。
初心者ユーザーという、刺すべき層にはちゃんと刺さっているのに。

こういうことが起きないように、すべてのデータは、習熟度帯ごとに分析しなければいけません。ひとくくりにしては意味がない。

ちなみに、ログインボーナスも報酬次第ではヘビーユーザーに刺さるようにはなるんですが、実践するのは難しかったりします。
なぜかというと、ヘビーユーザーになればなるほど、『欲しいもの』ってプレイスタイルによって多様化していくからです。ガチャを回すための魔法石的アイテムが欲しい人もいれば、他のアイテムが欲しい人もいるし、機能を解放してほしい人もいるし……。

比べて、やはりライトユーザーが『欲しい物』は、出発点がみんないっしょだからだいたい限られるため、やりやすいんです。最初はとにかくガチャ回したいからみんな魔法石的アイテムほしいよね、とか。

本題に戻ります。

ヘビーユーザー向けの機能がライトユーザーに使われていなくとも、それは構わないわけです。でも、狙った機能が狙った人たちに使われていないなら、大きな問題です。

たとえば、ライトユーザーの少ないサービスが、その層を増やそうと思ってクーポンを出したとします。
もしクーポンが、狙った少数派のライトユーザーよりも、多数派のミドルユーザーやヘビーユーザーに刺さってしまうものだったらどうなるでしょうか? 

多数派には刺さっているから、ユーザー全体で見たクーポンの使用率はとても高い。だから、それだけ見ていると、施策はうまく行ってると思って継続してしまう。
でも実際には、肝心のライトユーザーにはあまり刺さっておらず、離脱を止められていない。もしライトユーザーへの離脱防止策がこのクーポンだけだったら、これ、かなり致命的ですよね。

このようなことを防ぐため、KPIはユーザーの習熟度帯ごとに設計し、測っていくべきなんです。

なお、このKPIの観点から言えば、機能を新たに作るときはどこの習熟度帯に対して作るものなのか、作る前に考えていきたいですね。
アプリ開発にはさまざまな事情が絡むので、あくまで理想ではありますが。

━━実際にアプリ制作をしていく中で、KPI設計という観点から言って特徴的だった事例はなにかありますか?

共創スタジオが開発した、アウトドアブランド『Snow Peak』さまの公式アプリには、特徴的な部分があるかなと思っています。

ブランドとしての『Snow Peak』が好きであることは、かならずしも、イコールでキャンプ好きであることを示しません。
なのでこちらのアプリには、キャンプには行かないけどアパレルグッズはよく購入する、というユーザーさんもいらっしゃいます。
いわば、キャンプ好きとしての習熟度は0だけど、アパレル好きとしての習熟度はMAXの100、みたいな。もちろん、その逆の方や、両方の習熟度が高い方もいらっしゃいます。

さて、しかしキャンプ好きとしての習熟度が0なユーザーであっても、キャンプを体験してもらうと、その離脱率は一気に下がります。自分でキャンプをすることでしか得られない、特別な体験が手に入るからです。
逆に言えば、キャンプは、行かないといまいちその魅力がわからない。なので問題は、一回目のキャンプに行くまでのチェックポイントをどう用意するか、です。

そこで、アパレル好きとしての習熟度が高いと、それが生きてきたりします。

アパレルとしてのSnow Peak製品のファンだけど、あまりキャンプには興味がないユーザーが、「この服、耐寒性能すごいんだよな。キャンプ行ってみたらそれがもっと実感できるかも」なんて思って、最初のキャンプに行ってくださったりする。

アパレル好きとして通ったチェックポイントが、キャンプ好きとしてのチェックポイントへ、ユーザーを連れて行ってくれるんです。
こういった構図は、Snow Peakさんの公式アプリならではですね。

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━━共創スタジオでは、より効果的なKPI設計をするために、どのような取り組みをしていますか?

ユーザー体験です。これはわれわれ『共創スタジオ』の大きな特徴です。

ありがたいことに、『共創スタジオ』はさまざまな分野の方々からお話をいただいています。すると、新たにプロダクトを作る分野について、多くのメンバーが最初は習熟度0ユーザー相当の知見しか持たない状態です。

普通の開発会社さんなら、そのまま開発を開始し、KPI設計を行ってチェックポイントを作っていきます。

しかし、うちでは少なくとも、まず習熟度50くらいにはなれるようなユーザー体験を行います。『Snow Peak』さんの公式アプリであれば、メンバーみんなで、キャンプ好き習熟度50くらいになるまでの体験を、ひと通り実際に行いました。

そうすることで、習熟度0から50に行くまでどんなチェックポイントを作るべきなのか具体的に見えてきますし、それが正しいかどうか答え合わせもできます。

しっかりグロースするアプリを作ることにおいて、われわれのこの姿勢は、とてもよく機能しているという自負があります。

ただ、習熟度50から先を自分の身で知るのは、開発前のユーザー体験という範囲では、時間的な制約などからあまり現実的ではありません。

たとえば、習熟度50越えのキャンパーというのは、相当数キャンプに行ってさまざまな体験をしている人だとわれわれは想定しています。一朝一夕の体験でそういった方々と同じ視点に立つことはできませんし、立てると思うべきでもありません。

なので、習熟度50から先のチェックポイントは、予測で作っていく部分がどうしても多くはなります。とはいえ、習熟度50までを自ら体験しているので、それをしないことと比べれば、予測はかなり正確です。

もちろん、習熟度の高いユーザーさんにユーザーインタビューをしっかり行うなどして、さらなるカバーもしています。たまたま社内に習熟度の高いメンバーがいることもありますから、その場合はそういったメンバーを積極的にアサインし、活躍してもらったりも。

加えて、フラーがアプリ分析支援事業で展開している、App Apeを活用することもありますよ。これも、弊社の大きな強みですね。

フラーのプランナーやディレクターは、このようなことをしっかり考えてプロダクトに向き合います。

すべてのアプリにおいて、われわれ共創スタジオが目指すのは、どんなユーザーも習熟度100になれるような設計です。

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