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東急株式会社がまちづくりのDXに取り組む理由 街と暮らしを作るDXが指し示す未来(後編)

鉄道とまちづくりを軸に長年事業を展開してきた東急株式会社(以下、東急)は、これまで蓄積してきたインフラやハード面から始まるまちづくりのノウハウを生かしながら、ソフトから始まるまちづくりのCaaS(City as a Service)を実現するため、デジタルパートナーにフラーを迎え入れ、共同でアプリ開発などの取り組みを始めました。

まちづくりのデジタルトランスフォーメーション(DX)の先鋒とも言える取り組みに対し、東急はなぜ力を入れるのか、取り組みを通じて東急とフラーはどんな未来を見ているのか、両社の責任者にお話を聞きました。

後編では、特にアプリ開発について語ります。(敬称略)


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東急株式会社経営企画室経営政策グループ課長代理 小林乙哉氏:2004年入社。2005年から2015年まで渋谷ヒカリエの事業計画から開業後の現場運営まで携わる。2007年から2年間、東京都都市整備局へ派遣して公共交通の都市計画に携わる。2016年以降は、二子玉川や池上などで地域や自治体との公民連携を通した街づくり、社会実験プロジェクトを担当。現在は、デジタルを活用した街づくりCaaS(City as a Service)構想の推進を担当。

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フラー株式会社執行役員カスタマーサクセスグループ長 林浩之氏:1991年生。愛知県出身。同志社大学在学中にITベンチャーを創業。同社を6年間経営し、BtoCプロダクトを複数展開。事業立ち上げから拡大までの全行程を担当し、事業を売却。その後株式会社ドワンゴに入社、月額制コミュニティサービスの運営に携わりアプリチームの統括リーダーとして2年在籍。2018年8月フラーに参画し開発する全アプリの戦略を担当、組織拡大にも貢献。2020年7月には執行役員カスタマーサクセスグループ長に就任。ユメは世の中の「あたりまえ」を少しでも変革すること。

ーー小林さんはフラーとどのようにして出会ったのですか?

[小林]
一番最初の接点は、東急が2018年3月に開いたイベントにフラー副社長の櫻井さんに登壇いただいたことでした。

ちょうど私は聞く側にいましたが、大好きなスノーピークのアプリを作っていることと、出身大学でもある筑波大卒業生によるベンチャーであることがすごく印象に残っていました。その時からやっぱり「いいものを作っている」という印象が当時からあったので、気になっていましたね。

その後、2019年の東急アクセラレートプログラム(以下、TAP)でフラーさんにプレゼンしていただき、会社同士のお付き合いが始まりました。

ーーフラーの林との出会いはどういったところだったのでしょうか?

[小林]
フラーさんが2回目にTAPに参加した後に林さんからご連絡をいただいて、初めてオンラインでお会いしたのがちょうど1年前ぐらいでしたね。その時は東急としてアプリを通じてどんなことをやりたいのかというお話をした記憶があります。

[林]
住民の方々が広く使えるものを作りたいっていう構想は既にお持ちで、何を解決するのかという課題感も把握されていた状態だったと思います。それを踏まえて、フラーならどうするか?という議論をさせていただきました。

デジタル活用への解像度の高さと内製化を見据えた取り組みが決め手に

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ーー実際にデジタルのパートナーとしてフラーを迎え入れようと思った決め手は何でしたか?

[小林]
一つ目は私たちが何をしていきたいか、まちづくりの中でデジタルをどう活用していきたいかといったことに対する解像度の高さですね。アプリを作っていくことへの理解もとても早かったです。

二つ目は、これはすごく重要なんですが、我々は将来的に内製でデジタルを活用した施策を実現していきたいという思いがあります。そのため、取り組みの当初から、内製化にあたって社内の人材を育成したり、体制を整えたりということを前提にお付き合いただけるかがとても重要でした。

フラーさんにそのようなお話をしたときに、「ぜひその方がいいと思います」と言っていただきました。コスト面などでもちろん他社比較もしましたが、どちらかというと、DXの一環としてまちづくりアプリを作ること、そして内製化を見据えた取り組みができること、といった我々のニーズに的確に対応いただいたことが大きかったと思います。

ーーお二人はお互いにどういった第一印象を持たれましたか?

[林]
僕はめちゃくちゃ面白い気づきを与えてくれた人だなという第一印象でした。まちについて詳しい研究者のようなイメージも強かったですね。

そもそも街って、普段意識しにくいものです。「街」って言われたときに想起するものは人によって全然違うし、意識しないとなかなかつかみにくい、でも存在してるという。

そんな不思議な「街」について小林さんとお話した時に、僕は初めて意識をして街について考えたんです。その印象が大きいですね。

ーー小林さんはいかがですか?

[小林]
リモート越しで「金髪が来たな」という感じですけど、別に悪い意味じゃなくて…全然悪い意味じゃなくて、第一印象です(笑)。

非常に「共感力」のある人だなという印象です。こちらが言ったことに対する理解力が異常に高い方だなと。

リアクションがめちゃくちゃ早いんですよ。僕がお話しする街のことに対して「それってこういうことですよね」とか「たしかに私もこうなんです」と言える人って少ないんです。大体がポカンとする方が多いので。

これは林さんに限らずなんですけど、フラーの皆さんは「理解しようとする姿勢」に強い意志があるのを感じます。

社長の山﨑さんも、副社長の櫻井さんも、そしてメンバーの皆さんも本当に一貫して理解しようとする姿勢が強いですね。フラーという組織としての特性なのかなとも感じています。そんなやり取りを通じて、信頼がおけるなという気持ちが強くなっていきました。

専門領域を尊重し合いながらフラットに議論

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ーー他のベンダーさんとフラーとの違いは何ですか?

[小林]
「当事者力」、ですね。

一般的なシステムインテグレーターというのは、当たり前のことですが、システムを作るのが目的です。割り当てられた要件を確実に実行する一方で、戦略や改善提案といった当事者として伴走していく部分は、フラーと他のベンダーとでは全く違います。

その象徴的なトピックが、今回手がけた街の今をつくるアプリ「common」の要件定義です。

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(common公開のプレスリリースより)

ベンダーに発注する際の要件定義書は通常、発注側が作って事前に示します。

しかし、今回は東急とフラーが一緒に要件定義書を作りました。

林さんと一緒に課題を洗い出して要件定義を作るのに約4カ月くらいかけたのですが、アプリ開発やデジタル分野で自社での内製が現状ではできない組織にとっては、これからのサービス開発というのは、今回のように取り組むべきだなとも思いました。

[林]
小林さんのおっしゃる通りで、これからのアプリ開発やデジタルトランスフォーメーションを含むデジタル分野の事業や取り組みは、事業の主体である会社とデジタルに精通したフラーのような会社が、受発注者という枠を超えて一緒にやっていかないと無理だろうと僕も思っています。

僕らはデジタル領域の専門家ですが、他の領域に関しては素人です。

これは非IT企業の方々も同様です。それぞれの会社の専門領域については詳しくても、デジタルには詳しくないという場合はがほとんどです。

特にデジタルトランスフォーメーション(DX)に関しては、DXはもはや単なる既存事業のデジタルへの移し替えではなく、既存の事業を複雑で高度化したデジタルの分野で再定義して新しい事業を起こすのと同じ営みなんです。そうなると、デジタルを取り入れてお互いの領域が融合したものを何か作ろうとなった時に、それぞれの専門家が一緒に頭を突き合わせて考えないと難しいでしょう。

今回の場合、小林さんをはじめとする東急の皆さんがお互いの専門領域を尊重しながらフラットな関わり方で議論をしてくださったおかげで、リアルなまちづくりとデジタルのユーザーインターフェース領域が融合しました。

ーーなるほどですね。

[小林]
まちづくりもデジタルも言語化できないことがたくさんあるのですが、今回の取り組みで良かったなと思ったのは、言語化できない部分の議論を踏まえて、フラーが具体的な形にしてくれたことです。

「あなたの言っている事はこういうことですか?」といった形で、取り組みがスタートしてから2週目ぐらいにデザインという形で示してくれました。フラーの皆さんは本当につらい部分もあったかもしれませんが、結果的にそこが一番良いと思ったポイントとなりました。

[林]
あれはつらかったですよね〜。

[小林]
でも、あのやりとりは、こちらとしては結果的には一番良かったです。

[林]
僕もそう思います。

[小林]
まちづくりのDXという誰もやったことがない試みだけに、こちらが言語化できない部分に対して、議論を踏まえてデザインをまた出すといったことを3カ月ほど繰り返しました。時間はかかりましたが、形式化や言語化できないものを擦り合わせていく作業としては、結果的には正解の形だったなと思います。

[林]
僕もあればすごい正解だったと思います。双方の議論を反映したデザインや何らかの形を毎回3パターンぐらい持って行き、それを踏まえた議論を元にさえに次に新たな形を3パターンくらい持って臨む、といったことを繰り返しましたね。

[小林]
納期まで残り2週間で内容がかなり煮詰まった段階から「やっぱりちょっと違うかもしれないから、もう一度作り直しましょう」ということもありましたね…。

[林]
ありましたね〜。もしこれが従来の受発注者の関係だと、要件定義も納期もすでに決まっているので、ほぼできなかったでしょうね。

もちろん僕たちもスケジュールを一定決めて納期を守るために作る側面があるので、かなりのところまで煮詰まってきた段階で作り直すというのは、本来はできません。

おそらく発注者側もすでに完成間近なものの”どんでん返し”はハードな社内調整が生じることでしょう。しかし、今回のプロジェクトは妥協しなかったですね。

[小林]いいものをお互いに作っていきたいという思いでしたね。フラーさんの社内では色々あったかもしれませんが、林さんも嫌な顔一つせずに…。

[林]
むしろすごく反省しました。ひっくり返ったということは、それまで本来の理想と違うことをやっていたことになるので。「ああ、失敗したなあ」と思いました。でも、それでよかったなと思うんです。ただ、最初から正解行きたかったなっていうのはありましたけど(笑)。

[小林]
今思えば言い訳がましく聞こえるかもしれませんが、こちらもやはり言葉にしきれない部分がありました。フラーさんと議論して形にしていく過程で初めて、「ああ、やはりこういうことじゃなかったんだ」って気づけるんですね。逆に、ギリギリのところまで時間をかけて煮詰めないと気付けなかったかも知れません。必要なプロセスだったと思います。

デジタルはまちづくりの課題を”面”で解決するプラットフォームに

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[林]
世の中には本当に星の数ほどたくさんのアプリがありますが、例えばレジに並びたくないとか、オンラインで相談したいとか、オンラインで誰かと出会いたいだとか、基本的には1つのアプリは1個の”点”の課題を解決していくためにあります。

ただ、世の中にはFacebookやTwitterのように世の中の課題を”面”で解決していく、いわゆるプラットフォームと言われるものがあります。

今回、東急さんとお取り組みをさせていただいているまちづくりのサービスは、まさに”面”で解決に行く取り組みです。

もし、まちづくりに紐づく単一の課題を解決するため、ユーザーがそれぞれの課題に対応したアプリを何十個も所持するというのは正しい形ではないとは思っていいます。

その街での生活や普段の日常を支えるアプリという一つのプラットフォームという形が、僕としては極めて綺麗なストーリーだと思うのです。

さらに、単一の課題解決型のアプリがいくつもある状態ではデータは分散し、やはりデジタル上で人間を捕捉できないんです。

もし街に住まう人々の基盤となるプラットフォームを作ることができれば、データから人々のニーズを汲み取り、まちの中での利便性を高め、最終的に住民の生活を豊かにすることが可能になります。

その土壌を作るベースとなるプラットフォームサービスを1個作る必要があると思い議論した結果、今回の「common」があるのです。

こう行ったまちづくりのDXに対して、実際に長年にわたりまちづくりに関わっている東急さんがやることがすごく面白いし、価値があるなと感じますね。

[小林]
どこまでだったら地縁を感じすぎることなく、おだやかな信頼関係を構築できるのかや、デザイン、ユーザー体験など、あらゆるオプションの組み合わせでまさにいまも試行錯誤しています。

[林]
そうですね、本当に無限に組み合わせがあるので、長い目で見たときに取り扱うコンテンツや先々やりたいことをどう順序立てていけば理想に近づいていくかを考えながら、取り組んでいますね。デジタルのまちづくり領域はポテンシャルを強く感じる一方で、すごく手探りでもあるので、怖い時もあります。

[小林]
怖いけど何か新しい世界に突入してる感覚はありますね。

あらゆるアプリ関連の本に書いてある通り、アプリは作ってからが本当のスタートです。むしろ作った後、ローンチした後の方が、議論が始まっていますよね。改めて顧客体験を議論し直したりというのを、絶え間なくさせてもらっています。

[林]
そのマインドを持ってる人って本当に少ないんです。一方で小林さんをはじめとする東急のみなさんはそこにすごく理解があるなと感じています。

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ーー最後に一言ずついただけますでしょうか??

[林]
僕は世の中のアプリに対する「認識水準」を上げたいなと思っています。

アプリを作るのは、とても難しいんです。

これについては世の中の誤解が抜けてなくて、決してローコード・ノーコードのアプリパッケージが良くないって言ってるわけではないのですが、アプリをちゃんと作り切って事業の根幹にしようとすると、アプリを作ることは途端に容易なことではなくなります。

この1、2年で中途半端なアプリがすごく少なくなって来ているように思います。

具体的には、いわゆるローコストで早く作るパッケージ性の高いアプリソリューションと、その対極にあるフラーのような完全オーダーメイドでコストも時間も人もかかるアプリ開発に二極化してきたと最近思うんですね。

これは両方の住み分けが完全にできているなと思っています。

おそらく東急さんもアプリ開発を検討するにあたっていわゆる既存のアプリパッケージも検討されたんじゃないかなと思うのですが、結果として今回のお取り組みでは、アプリをゼロからフルスクラッチで作らせていただくことになって、僕はすごく良かったなと思ってるんです。

まだ誰もなしえたことない、まちづくりのDXを手探りで進めていくことや、デジタルを事業の根幹にしていくこと、長い目でアプリを大切に育てていこうと考えているといった要素がある場合は、フルスクラッチで作った方が、ユーザーにとっても受発注者にとっても良い結果になるからです。

デジタル側の人間としては、一緒に考えるところから携わっていきたいなといつも思っていますし、そういう意味で今回東急さんの取り組みは光栄だなと思います。

ーーありがとうございます。小林さんいかがでしょう。

[小林]
アプリを作る営みというは、より人間の事を繊細に理解していくプロセスではないかと感じています。手元で目の前の一人一人に合わせた価値を提供するインターフェースって多分、スマホが初めてだと思うんですね。

一日中ユーザーに寄り添って目の前で何かインターフェースとして情報を送れる手段って無かったじゃないですか。裏を返すと、時間軸や時間の幅、思考のちょっとした変化などについて、非常に細かいところまで人間への理解や配慮が必要な時代になったと思っています。

きめ細やかな対応をしていくには、やはりきめ細やかな体制でやっていく必要があります。ちょっとした変化に敏感に気づいて、丁寧に対応していかないと、やっぱりアプリを使い続けてもらうことは不可能だなと。

そう言う意味で本当にしっかりとした体制をフラーさんと組まさせていただいて、あらためて正しかったなと思います。これからも一緒にいいものを作っていきたいですね。

編集・日影耕造(ひかげ・こうぞう):建設業、農業の各専門新聞記者として合計10年間活動後、2017年フラー入社。データに基づくコンテンツ作成やマーケティング、SNS運営、広告運用、事業広報などを手がける。趣味はギターと焚き火。自転車と登山も好き。最近は釣りにはまりつつある。


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