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アプリ運営のコンセプトは“馴染みのレストラン” TimeTreeが大切にするユーザーとの息の長い関係性 App Ape Award2022 ロングライフ賞アプリインタビュー

App Ape Award2022でカレンダーシェアアプリ「TimeTree」が特別賞のロングライフ賞を受賞しました。

TimeTreeが長く愛されるアプリとして成長してきた経緯や施策・デザインの変遷、心がけていることなどについて、フラー副社長CDO(最高デザイン責任者 Chief Design Officer)の櫻井がTimeTreeの深川CEOに聞きました。
(敬称略、記事・石徹白未亜、編集・日影耕造、写真・島)


(左から)深川CEOと櫻井

株式会社TimeTree CEO
深川 泰斗 氏
Yasuto Fukagawa
九州の大学院で社会学・文化人類学を学び、2006年にヤフー株式会社へ入社。ソーシャル・コミュニケーションサービスの企画を担当。2012年にヤフーからカカオジャパンへ出向後、2014年に株式会社JUBILEE WORKS(現 株式会社TimeTree)を共同設立。2015年3月にカレンダーシェアアプリ「TimeTree」をリリース。

取締役副社⻑CDO 兼 デザイングループ⻑
櫻井 裕基
Hiroki Sakurai
1989年生。新潟県出身。国立長岡工業高等専門学校卒業後、千葉大学工学部デザイン学科へ編入学。2012年にフラーに参画し、2014年1月に取締役、2019年6月に副社長に就任し、現在は取締役副社⻑CDO 兼 デザイングループ⻑(最高デザイン責任者 Chief Design Officer)。ユメは世界一働きやすい会社を創ること。

TimeTreeのロングライフ賞受賞理由について

ロングライフ賞は、長期間運営しているアプリの中でも、積極的な運営や改善の取り組みによってユーザーとともに息の長い成長を実現しているアプリをアプリ分析サービス「App Ape(アップ・エイプ)」のデータをもとに選定するものです。

2022年11月時点でストア評価が平均4.0以上、運営期間60カ月以上のアプリを抽出。その中から積極的な運営や改善の取り組みが見られ、ユーザーとともに息の長い成長を実現している姿が見えるアプリを選定しました。

TimeTreeは運営月数が7年以上と長期に渡るのにもかかわらず、2022年11月時点でのストアの評価はiOSのApp Storeが約4.6、AndroidのGoogle Play Storeが4.07と高く、頻繁なアプリのアップデートによる改善も繰り返しています

ユーザー体験を含むデジタルプロダクトデザインの観点からも極めて優れており、ユーザーに寄り添った改善と成長、そして一連のアプリに関する情報発信を丁寧に重ねています。

上記を踏まえ、人とアプリの良好な関係性が滲み出るTimeTreeに敬意を表し、ロングライフ賞に選定しました。

長く愛される秘訣は「レストラン」というコンセプト

櫻井:ロングライフ賞選定おめでとうございます。率直な感想を聞かせください。

深川:アプリにとって「ユーザーさんに長く使っていただく」ということほど嬉しいことはないので、素敵な名前の賞をいただいたと思っています。

櫻井:TimeTreeが長く愛されている理由はどこにあるとお考えでしょうか。

深川:まずアプリそのものの性質にあると思います。TimeTreeは家族、パートナー、友人など誰かとカレンダーを共有するアプリであり、予定が過ぎた後もカレンダーの記録はかけがえのない思い出として蓄積されていきます。まさに過去から未来の蓄積こそが、長く使っていただける理由だと思っています。

共有する相手がいるカレンダーアプリは、予定を見て反応があったりお互いの会話のきっかけになったりと言った具合に、自分のためだけに予定を登録する時よりもコミュニケーションが生まれやすく、ユーザーさんがTimeTreeを使い続けるモチベーションにつながっています。

実際、私たちもある種のコミュニケーションサービスを作っているのだという認識で日々運営や改善に取り組んでいます。

櫻井:アプリそのものの機能設計やユーザー同士のコミュニケーションが生まれやすいところに長く愛される理由があるのですね。運営面で気を付けていることはありますか?

深川:いつも意識しているのは「馴染みのレストラン」という運営コンセプトです。

私たちは運営としてTimeTreeを提供してるだけではなく、アプリを通じた日々の“体験”を提供しているわけですが、この営みを社内外に紹介したり共有したりする際、それだけではいまいち分かりにくいなと思っていました。

そんなある時、アプリ運営を「馴染みのレストラン」に例えてみたら、すごくしっくりきたんです。

馴染みのレストランというのは、そのお店に行けばいつものメニューがあって、迎え入れてくれる店主をはじめとするお店の人々がいて、何気ない会話とともにいつもの美味しいご飯が食べられてあたたかな気持ちと満腹が得られる場所です。

もしレストランでどんなに美味しいハンバーグが出されても、どんっ!と乱暴に机の上に置かれたり、厨房でスタッフが喧嘩していたりしたら、美味しく感じられないですよね。

また、どんなに美味しくても誰が作ったのか分からなくて、お店の人と接する機会が全くなかったら、きっと不安になりますよね。

TimeTreeの運営に置き換えると、アプリをただ一方的に提供して終わりにするだけではなくて、私たちの顔や姿が感じられる形でユーザーさんにアプリを知ってもらって、安心して使ってもらって、愛着をもってもらって、満足してもらう。全部含めて、馴染みのレストランのように提供していきたいと思っています。

もしApp Storeのレビューに「サポートにお問い合わせしたらとても親切でした」と書いてあったら、アプリの利用を迷っている人にとっては「私にもうまく使えるかも!」と安心材料になり、インストールにつながることもありますよね。その積み重ねによって「馴染みのレストラン」のように慕ってもらえる運営を大切にしています。

ユーザーを招待したリアルイベントも開催

櫻井:TimeTreeはアプリ活用事例の読み物など、周辺コンテンツも豊富です。また、ユーザーさんの質問に対しても細やかに返信しており、そういった配慮は「馴染みのレストラン」というコンセプトがあってのことなのですね。

深川:そうですね。コロナ前は、3ヶ月に1回ほどの頻度でユーザーさんをオフィスにご招待する「TimeTree Day」を開催していました。

レストランでお客様からその場で「美味しかったよ」って言っていただき、お客様の食後の満足そうな表情を見ればスタッフ一同やる気が出ますよね。逆にいつも「美味しかったよ」って言ってくれるお客様が浮かない顔をしていたら、何がよくなかったのかな、と振り返ることもできます。

一方、TimeTreeはアプリなので、ユーザーさんの生の声を直接確認することはできません。

そこで弊社のリアルイベント「TimeTree Day」が大きな役割を発揮します。ユーザーさんの声を直接伺う貴重な場なので、エンジニアメンバーも多く参加し、ユーザーさんからお困りの点を聞き出して、不具合を再現してもらって、その場で修正をしたこともありました。

これはあくまでほんの一例ですが、日頃のユーザーさんとの関係があってこそ、ユーザーさんが周りの方にTimeTreeをおすすめしていただいたり、率先してレビューを書いていただいたり、ツイートでほめていただくことにつながっていると感じています。

「チームビルディングに効いてくる」ユーザーの声を聞く文化がもたらすもの

櫻井:サービスをローンチする前のタイミングでユーザーヒアリングをたくさん実施して、開発の方向性や機能を検討することは多くのアプリデベロッパーが取り組んでいることだと思いますが、TimeTreeさんは開発時だけでなくその後も定期的にユーザーさんとのつながりを持たれていて、ここまでする会社はかなり珍しいと思います。こういった活動を続けて得られた気づきはありますか?

深川:なかなか数字では表現しにくいですが、確実にポジティブな影響があります。

例えば、ユーザーさんとの関係を持ち続けることがチームビルディングに効いています。

ユーザーさんと交流を持つことで、スタッフ一人ひとりにユーザーさんの名前や顔が思い浮かぶインパクトはとても強いです。「●●さんだったらどう使うかな」と思い描くことができますから。

逆にそういった気持ちがなくなってしまうと、ユーザーさんじゃなくて「社長の顔を見てアプリを作る」になってしまう。そうなってはいけないと思います。

櫻井:ユーザーさんとの向き合い方をどのように作り上げていったのでしょうか。

深川:会社として「ユーザーさんの声を聞くように」とメンバーに言ったことはありません。

最初から今と同じような形でユーザーさんと向き合っていたら、みんな自然とやってくれるようになりました。実際、「TimeTree Day」も会社の規模が小さい頃から開催していました。ユーザーさんを4〜5人ご招待して今と変わらずメンバーとユーザーさんが対話するという形でした。

ユーザーインタビューも頻繁に実施しています。メンバーは固定ではなく、参加したいスタッフが手を上げる方式です。毎回たくさん手が上がりますが、あまりにもたくさんのメンバーに囲まれたらユーザーさんが萎縮してしまうので、各回3人までに絞っています。メンバーはみんな興味津々です。僕も同席することもありますね。

櫻井:日常的にユーザーに向き合うポジティブな雰囲気というか、文化があるんですね。

深川:はい。ユーザーインタビューだけではなくて、日頃スタッフが使うSlackにもユーザーボイス系のチャンネルをいくつも設けています。App Storeの国内ユーザーさんのレビューに加え、グローバルでのレビューが日本語翻訳と合わせて各国の国旗付きで流れるチャンネルもあります。Twitterのエゴサーチの結果を紹介するチャンネルもありますね。

櫻井:ユーザーさんの声を聴き、思いもよらない使い方が見つかった、というケースもありますか?

深川:本当にたくさんあります。TimeTreeのカレンダーに参加できる人数の上限は当初20人でしたが、ある時「上限を100人できませんか」とユーザーさんからお問い合わせをいただきました。

理由を伺うと「子どもが通うサッカー教室でも使いたいが保護者を入れると100人ぐらいになってしまう」とのことでした。

そこで、メンバーが詳しく利用シーンを聞いた後、実際に上限を100人に変更して、さらにはサッカー教室の保護者のみなさんで使っていただいた使用事例としてインタビューして、記事コンテンツにしてアプリ内でも読めるようにしました。

そういったユーザーさんの声を聞くことで分かった思いもよらない使い方は他にもたくさんあります。そんな姿を記事にして丁寧に発信することで、さらに多くのユーザーさんにアプリを使っていただけるシナジーもあります。

大切にしたいのは“人間臭さ”

櫻井:熱心なファンであるユーザーさんをどうやって見つけているのでしょうか?

深川:ユーザーさんからのお問い合わせ対応やコミュニケーション全般を担う「ユーザーリレーション」チームが素早く柔軟に動くことで見つけています。

例えば、ブログやTwitterでTimeTreeをほめてくださっている方に感謝の気持ちを込めてTimeTreeのグッズを送る「サンキュープロジェクト」はその一例です。

データをもとに何か施策をきちっと決めて計画通りに実施するということはもちろん重要ですし、TimeTreeでももちろん展開していますが、そうではない人が担うからこその“人間臭さ”も重要だと思います。

櫻井:TimeTreeはアプリのアップデートも頻繁ですよね。

深川:iOSチームとAndroidチームがそれぞれおおよそ隔週でアップデートするというスケジュールで開発を進めています。もちろん、急ぎ修正したいというものがあると、月に3回ぐらいアップデートすることもあります。

櫻井:TimeTreeのApp Storeのページを見ると、通常記載される機能などのアップデートやバグの修正が記載された横に、「[最近の運営]・社内で家電の相談ができるチャンネルが誕生」といった社内の近況報告などもあり、ユニークですよね。

深川:これも「こういう書き方にしよう」と決めて始めたわけではなくて、コンセプトが「馴染みのレストラン」ならどうする?と、スタッフ各自が試行錯誤した結果ですね。僕が書きたくて「中の人」になることが年に1回ぐらいはあります(笑)。

パソコンが急に動かなくなったら結構イライラするけれど、行きつけの定食屋が急にお休みになったら、大将大丈夫かなって思うじゃないですか。そういう人間臭さをユーザーさんとのさまざまな接点で大事にしています。

ユーザーさんから地元の特産品などをいただいたりすることもあるんです。

イチゴ農家を営むユーザーさんがTimeTreeで栽培スケジュールを管理されていて、私がお問い合わせの対応をしたらとても丁寧ですねとお言葉をいただいて。それ以来イチゴを毎年送っていただきます。スタッフみんなで食べている写真を送ることが毎年恒例行事になっています。

櫻井:人間臭さを感じるエピソードですね。そういう感覚で物作りができるのは、作り手の人たちも幸せですね。

深川:はい!あたたかな人と人との関係性がTimeTreeには溢れているなと感じています。

“サイレントマジョリティ”の声をどう拾う?

櫻井:ユーザーさんの距離の声を積極的に聞かれていると、応じられない意見も出てくるかと思いますが……。

深川:そうですね。目の前で言われるとなんとかしたくなるものですが、当然のことながら全てに対応することはできません。

病院で患者さんが「熱があるから手術してください」ってお願いしてきたからといって、患者さんの言う通り手術する医者がいい医者かと言えばそうではないのと一緒です。

いただいた意見は受け止めた上で、なぜそこに困っているのか、同様に困っている方はどれだけいるのか、それは取り組むべき課題なのか、どんな解決方法であれば良いのかまで考えた上で対応しています。

一方、半年に1回 “Bugfix Week(バグフィックスウィーク)”を設けています。その週は新規開発をせず、バグや不具合の修正に取り組む期間としています。

バグフィックスウィークにあたって日頃いただいているユーザーさんの声を集計して困っているものから直す、ユーザーさんの声ドリブンで取り組んでいますね。

櫻井:ユーザーさんの声を大切にする一方で、アプリ利用者には発信をしない大勢の“サイレントマジョリティ”もいるかと思います。そんなサイレントマジョリティの声なき声はどう汲み取っているのでしょうか。

深川:そこはデータや数字が活躍する場面ですね。ユーザーさんの声と同様に、アプリの利用動向から得られるデータも同じぐらい重視しています。数字には機能が受け入れられた・受け入れられなかったといった可否などがはっきり出るからです。

新たな機能を追加する際も、様々なテストを行い、得られたデータの数値を確かめた上でリリースしています。ユーザーさんの声を聴くことにも注力していますが、声として上がらないものをどう見るかも同じくらい大切にしています。

ユーザーの声を聞くスキルもアップデートされていく

櫻井:改めて、長く愛されるアプリに必要なこととは何でしょうか。

深川:アプリで最も刺さっているものとは何か、アプリが最も解決している課題とは何かを認識したらブレずに貫き通すことだと思います。

そのためには、やはりユーザーさんの声が重要です。

ユーザーさんの声を聞けば聞くほど、ユーザーさんからいただいた声を理解するスキルもブラッシュアップされていきます。ユーザーさんに受けているものが分かった上で、改めてユーザーさんのお話を聞くことで、さらに理解が深まり、TimeTreeの価値をユーザーさんに感じてもらうための開発や改善につながるからです。

櫻井:ユーザーさんの声を聞くのが文化、習慣としてあるからこそ、より深く理解することができるのですね。最後にTimeTreeの今後のロードマップについて教えてください。

深川:ユーザーさんの声をさまざまな形で聞くことで、TimeTreeのプロダクトを使いやすくしたいです。カレンダーの機能を生かしたビジネスも今後立ち上げていけたらと思います。海外展開もこれまで以上に本腰で取り組んで、世界に通じるプロダクトを作っていきたいです。

「世の中の予定管理の概念を変える」という大きな挑戦をしていますが、まだまだ道半ばです。やりたいことはたくさんありますが、そのためにはたくさんの仲間が必要です。

私たちと一緒に世の中にインパクトのある新たな価値を創るエンジニアを絶賛募集中ですので、ぜひよろしくお願いいたします!

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